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大好きだったその声でそんなこと言わないで欲しい。切なくなるから。
晴海さんは続けた。
「彼にも失礼だったと反省した。大人げなかった。一方的な話で悪者と決めつけて。」
「…うん。」
「彼は若いね。若くて純粋で僕が失ったものを全て持ってる。いい年をして嫉妬したよ。」
「…晴海さんでも嫉妬なんかするの?」
晴海さんは手を止めて振り返った。
「由貴さん、僕はね…愚かで利己的でどうしようもない男なんだ。だけどそんな僕を君は真っ直ぐな気持ちで想ってくれたから君の思う“晴海さん”を演じてしまった。そうしてまでも君と一緒にいたかったんだ。」
晴海さんは悲しげに微笑んだ。
晴海さんも…私といるとき、苦しかったの?
訊こうとしてやめた。
包装されたコーヒーを受け取り、店を後にした。
嫌だな。
私、今ならわかる。
私と結婚していた頃の晴海さんの気持ちが。
直向きに想われることが、自分を縛る。
自分もそれに応えなければということが優先して自分の気持ちが見えなくなる。
好きだという気持ちは確かなのに、どうしてこんなにも苦しいの?
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