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「敦子さん…アメリカに行ったんじゃ」
「一時帰国したのよ。向こうで事業を始めることにしてね。その関係よ。」
夫に付いてアメリカに行ったとはいえ、あの敦子さんが大人しく主婦をしてるわけがなかった。
敦子さんはアメリカを“向こう”と言い、日本を“こっち”といいながら相変わらずの早口でペラペラと喋った。
私は職場の近況を伝えた。
「…で、プライベートはどうなの藤原。たしか結婚したって聞いたけど?」
そう聞かれて、敦子さんのサングラスに写った私の顔はみるみる歪んだ。
私は最近の出来事を敦子さんに全て話した。
晴海さんに浮気され離婚したこと。
相楽くんとのこと…。
相楽くんの後ろ姿を見送ったあの夜も泣かなかったのに、敦子さんを前に泣きながら話した。
一緒に働いてたときだってこんなにプライベートの話をしたことはなかった。
敦子さんは黙って聞いてくれた。
ただサングラスが大きすぎてその表情はわからなかった。
「…だから一緒にいるのは辛いからって言って別れて…彼とはそれ以来会ってません。」
私が一通り話すと、敦子さんはサングラスを取った。
ギロリと私を睨む目。相変わらずの迫力。
思わず怯んだ。
「藤原ー!あんたは結局どうしたいわけ?!」
「どうしたいって…言ったじゃないですか、好きだけど一緒にいたら辛いんです。一緒にはいられない。だから…」
「グチャグチャ、グチャグチャ…御託はいいのよ。
好きなんでしょ?その子のこと。」
「好きだったけど考えると辛いから…一緒にいたら…」
「じゃあ好きじゃないのね?」
「いえ、好きです。でも辛いんです。あの過去が無ければ私は…」
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