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あなたがかき鳴らすギター。私が歌う歌。あの日、二人は出会った。
CDショップのメンバー募集の掲示板にプリクラ付きで載せたボーカル希望。それを見つけてくれたのがあなた。
駅前のファーストフード店前で待ち合わせ。
何度もメールを読み返す。
『Do As Infinityの『翼の計画』か、駅前通路でやろう。コードだけだからメロ線しっかり』
タケルさんのメールは唐突だった。いきなり路上ライブの話になってる。カラオケと違ってメロ線のガイドキーはない。ボーカルなしのCDを聴いて歌って練習したけど大丈夫かなぁ。
タケルさんは、グレーのビジネススーツ。ええ?聞いてない。仕事帰りだけど私はちゃんとスーツから私服に着替えて来たのに。目印はギターケースに付けた、オレンジのサーフボードのアクセサリー。間違いない、この人だ。
「モナミちゃん?」
私のギターケースには目印の白猫のステッカー。
「はい…タケルさん?」
「うん。腹ごしらえしたら駅ナカ通路で『翼の計画』いくよ」
「あの…いきなり路上ライブですか?」
「バンドでライブやりたいんでしょ?」
「れ、練習とか…は?」
「ひとつ忠告。メンバー募集の掲示板ですぐカラオケや貸しスタジオに行こうって奴に絶対についていかないように」
「はい。デモ音源持ってきました。直した方がいいところを教えてください」
CDに焼いた音源を手渡す。
「電話で歌ってみてって言ったときに聴いたからいい。直すところはギターと合わせながら。練習だと思うよりライブに慣れるのが一番」
タケルさんはハンバーガーセットをスゴい速さで食べて、私の袖をつんつんと引っ張った。
「あっあの…路上ライブの前にハンバーガーセット480円の清算が」
タケルさんはお財布から500円玉出すと、500円玉で器用にコイントスをする。
「表か裏か?どっちに賭ける?俺が当てたらワリカン、モナミちゃんが当てたら俺の奢り」
「え?じゃあ…表かな?」
タケルさんは左手の手の甲に伏せた500円玉を右手を滑らせて見せる。裏の桐の花だ、良かった。初対面で奢ってもらう訳にはいかない。
「裏で良かった、自分で食べた分はちゃんと払います」
「桐の花のこっちが表だよ?数字がある方が裏、俺の負け。さあ、ライブライブ」
「初めて知りました。ご馳走さまです」
こうして駅ナカ通路で路上ライブが始まった。
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