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チューナーでささっと弦をの音を合わせるタケルさん。私はちょっともたつく。ピアノと違ってチューニングに慣れるまで大変。
「頑張れ、慣れれば早く出来るから」
『翼の計画』のコードをかき鳴らしながら、足でドラムのリズムを取りながら待ってくれるタケルさん。
「待てせてすみません、お願いします」
「大丈夫、さっ、いくよ。入りのコーラスはモナミちゃんのタイミングでいいから、ピッチはこのくらい」
足でリズムを刻むタケルさん。
タッタッタッタッ、よし、ここだ。
コーラスから歌詞に入るまでコードを弾きながら。
足が震えるほど緊張して、『翼の計画』の1曲があっという間だった。誰も足を止めなくても目の前に帰宅ラッシュの大勢の人。めっちゃ緊張した。
「なかなかやるじゃん?なんかやってた?」
「ピアノと、え、演劇部とか」
「やっぱり。よく通る声してる、だけどDo As Infinityの物真似はダメ。あとギターはもっと練習…って、手がちっこいな、そのアコギだと辛そう。もっとネックの細いの要るな」
ポケットからメモ帳を取り出してタケルさんのアドバイスをメモする。
「おいおい、仕事じゃないんだから。真面目なのはいいけど」
「お給料貯めてネックの細いギター買い直しますっ!先輩!」
「演劇部って意外と体育会系?」
タケルさんは笑い出した。
「あ、昔小学校の学童で女子サッカーやってました、そっちのノリでつい」
「サッカーやってたんだ、俺も中学までサッカー部。ネックの細いギター余ってるからやるよ」
「幾らですか?今月のお給料日はえっと…。足りなかったら月賦でお願いします」
「律儀だね。おし、もう一回やるぞ。さっきの500円で、モナミちゃんはどっちに賭ける?俺が勝ったらギターはプレゼント、モナミちゃんが勝ったら分割払い」
「数字がある方が裏でしたよね?じゃあ裏」
「俺は表。俺は賭けに強いから」
タケルさんは綺麗なコイントスをして、また左手の甲の上の右手を滑らす。
「裏、モナミちゃんの勝ちか。俺より賭けに強いなんて強運の持ち主」
私はタケルさんがコイントスをした後、右手を滑らす動きに違和感を覚えた。右手の指と指の間を開き、コインの柄を見て右手で操ってひっくり返してる。
「あの、先輩。この賭けは私の負けです。わざと負けてくれましたよね?今指の間からコインの表裏を見て滑らすときにひっくり返した。月賦で払います、ネックの細いギター代」
タケルさんはヒューと口笛を吹いて目を丸くした。
「動体視力ハンパないな。でも、一回目で見抜けなかった。二回目のコイントスの前に言ってたら月賦で払ってもらってもいいけど、遅かったから、ネックの細いギターはあげる。使ってない奴だから気にすんな、わかった?」
「はい、ありがとうございます」
「とりあえず今日は自分のギターで頑張れ。あとは何の曲やる?」
「えっと…」
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