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「え?サクラを用意する?」
私の通話の声はつい大きくなる。
「まーまー、落ち着けモナちゃん。友達に頼んで友達じゃないふりをしてもらう」
「そんなことしたって何にも…」
言い掛けて気がついた。行列の出来るなんとかも自然発生する場合とお願いしてやってもらう場合があるらしい。行列があると宣伝効果になって、人気があるのかと立ち止まり列に並ぶ人が出てくる。そんな噂は聞いたことがある。この話をタケルさんにして、
「もしかして呼び水にするってことですか?」
「そのとーり、勘がいいね。多少立ち止まってくれる人増える、俺は友達2人くらいに頼む」
「あっ、いいこと思い付いた。貸しがたっぷりある奴に頼みます、へへへ」
「モナちゃん何か企んでる?」
「企んでまーす。ツケを利子付きで回収」
「なんか面白そうだけど、ちょっと真面目な話するぞ?一番聴いて欲しい人にサクラは頼むなよ。サクラはこっちであと3人は用意出来る」
「一番聴いて欲しい人?その人にはもう会えない。でももう未練はないから、一番聴いて欲しい人なんて私にはいない。出来るだけ多くの人に路上ライブを聴いてほしい、それだけ。トモヤともう一人は一番聴いて欲しい人じゃないからサクラにぴったり」
「そっか…。モナちゃんは素直な体育会系に見えたけど意外と強がりでへそ曲がり?」
「どうでしょう?少なくともトモヤに未練は1ミクロンもない。ただその前にちょっと色々あって…そっちの人かな。へそ曲がりでも人として曲がったことはしないと決めたんで」
「ん?ワケありの恋?」
「そんなとこです。物理的にも遠いからこっちに来られないし、子供連れでキャッキャされても困る。でも、その人に聴かせるつもりで歌います」
「オイオイ不倫は良くない。誰だよ、そのとんでもない男は?」
「違いまーす。バツイチで復縁したいのにもさもさしてるから、背中を押して復縁上手くいった人。私、この若さで仲人ですよ?」
「なんだそりゃ!?モナちゃんは意外性有りすぎ。びっくり箱かよ」
「そうですよ、中から何が出てくるか、蛇かウサギか宝石か?私は手品のびっくり箱」
「じゃ、トモヤは次カレで元カレか。ライブ中断してキヤットファイトしたら仲裁してやる」
「そんな無駄なことしないですよー。トモヤはリナと来るから大丈夫。付き合って、ちゃんと別れてから次に行く。物事の順番が守れない人は死ぬほどキライなんで。貸しはきっちり返せってちょっとだけ凄んでおきます」
「あのさぁ、もしかしてグレてた時期ある?」
「ありますよ、ちょっとだけ」
「やっぱそうか。同じ匂いがした」
「タケルさんはどうみてもグレてた過去ありそうだけど、気を悪くしそうで言わないでおきました」
「気を遣うし、律儀なのになんでグレた?」
「グレた方がなんかカッコいいから、それだけ。若い頃はアホでした」
「俺もアホか、おんなじ理由とか笑う」
「マジですか?」
「マジ。笑い止まらん」
「似てますね、なんか私達」
「似てる、合わせ鏡かよ」
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