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「雪が滲んでいるの?
あなたが歌ってるの?
それとも誰かが歌っているの?」
オリジナル曲はタケルさん作曲で作詞は私。
元カレのトモヤとリナが仲良く腕を組んでサクラをやってくれてる。トモヤではなくこの詞は、遠くのどこかで私が名古屋をして復縁したあの人への歌。タケルさんは私の瞳がトモヤを見ていないことに気づいてる。
トモヤだけが歌詞で居心地悪そうに何か勘違いしてるみたいだけど。お前じゃねーし。
サクラ作戦が上手くいったのか2、3人立ち止まってくれた所でトモヤとリナは去っていく。リナが去るときにタケルさんの方を二、三回、振り返ったとき、もしかして…トモヤと上手くいってない?とちょっとだけ引っ掛かった。
茶番のようなお巡りさんの巡回がやってきてオリジナル曲一番の途中でライブ終了。また撤退からの駆け足移動。
「モナちゃん、もう一曲オリジナル作って次はライブハウスでライブやろう」
「やった、ライブハウス楽しみ」
「で、忠告ふたつ目。元カレいい感じで勘違いしてるから奪い返せ。招待チケ送って」
「えぇ?もう関わりたくないんで」
「それが奪い返した後の本音なら、もう一度野に放てばいい。隣の子は人の物だから欲しくなるタイプで、そろそろ飽きて次探してる」
「当たる占い師やってます?副業で」
「伊達に長く生きてない、一回り上の勘」
「共同戦線ですか?リナがタケルさんの方ばかり見てたのは気づいてましたけど」
「そういうこと。リナも勘違いしてる。俺達が付き合ってると思って人の物が欲しい悪い癖がまた始まると」
「そういう性格悪い女が好みなんですか?」
皮肉っぽく言うと、タケルさんは自信ありげに悪い笑顔で返してきた。
「人の男が欲しい悪い癖も直る、俺といれば」
「すごい自信。利害は一致しましたね、その作戦ノリますよ。面白いことが好きなんで」
「忠告3つ目、曲の歌詞としては情緒があっていいけど、過去じゃなく今を生きろ。若い頃の同年代同士なんて押しが強い方が勝つ。リナの悪い癖は俺が直すから、あの気弱そうな奴をしっかり捕まえて尻に敷いとけ」
「耳が痛いなぁ。副業が占い師疑惑のあるタケルさん?その占い当たります?」
「100%当たる。今度はトリックなしだ、モナちゃんがこの500円投げて表裏当ててやるよ」
「ふーん。じゃ行きますよ、コイントス」
私は左手でコインを弾いて右手の甲に伏せる。耳を澄まして掌と甲の感覚に集中する。
「表」
タケルさんは、私が迷ってる間に先に駆けた。
「じゃあ裏?」
左手をそっと離すと表だった。ひとつ気になってたことがあるのでタケルさんに聞く。
「目と耳で当ててますよね?前に私の動体視力を誉めたけど、それ以上にタケルさんは音とコインの回転が見えてるからそれで当ててる」
「どこで気づいた?」
「私が掌で押さえる直前のコインをよく見てたから」
「ご名答。コインの回転だけじゃなく、モナちゃんより少し長く生きてるから色々先が見えるだけ。副業は占い師じゃない」
「タケルさんの観察力に賭けてみます」
「そうこなくっちゃ。」
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