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「明日から?」
それは八月末、大学の初めての夏休みも中盤に差し掛かった頃。バイト終わりの和を迎えに来て一緒に帰る帰り道のこと。
「…うん……ごめん、急に決まったんだ」
「いいけど……どれくらい行ってるの?」
「予定は三泊かな。ちょっと逢えなくなっちゃうけど………」
「どうせ、和のことだから黙ってられなかったんだろう………」
話はこうだ……
仁さんの叔父さんのブルーベリー農園で、毎年バイトに来てた人が来れなくなって困ってるって話を聞いて、和が行くって言ったらしい。
「それってさ、もう一人追加で行くってのは駄目かな?」
「えっ?」
「さっそく仁さんに聞いてこよう!」
俺は来た道をUターンして、仁さんのカフェに向かった。
翌日………
「まさか本当に昨日の今日で、一緒に行くなんて」
隣で和がぶつぶつ言ってるけど、俺はそれどころじゃない。なんせこの夏休みに車の免許が取れたばかり、初めての長距離に隣には大事な人。
緊張で、ハンドルを持つ手が汗ばむ。
兄貴にも朝から………
「車で行くのか?!」
「だって………その方が……」
「二人きりだしとか思ったんだろう?」
冷やかな視線を浴びせられながら言われた。
図星だけど……
「あくまでも仁さんの叔父さんの手伝いに行くんだからな!二人で遊びに行く訳じゃないからな!」
さすがに兄貴の恋人に、迷惑をかけるようなことはしないつもりだけど……
車なら、途中でちょっとイチャイチャしたり出来るかも……なんて思ったことは事実だ。
「本当に気を付けろよ、高速も田舎道も慣れない道路は危ないからな!和も乗せていくんだし」
兄貴の小言に、ハイハイと返事をして家を出た。
そして今、初めての高速道路の料金所を抜けて、なんとか左端のレーンを走り出した。
俺の緊張が和も伝わったらしく、最初のぶつぶつはすぐに収まり、後はひたすら黙って座っていた。
「ふぅ」自然と出た溜め息で、肩の力が少し抜ける。
隣で同じように息を吐く和。
「ごめん……やっぱり電車が良かったよね?」
「ううん、そんなことない。運転してる夏希、格好いいし……」
言いながら、自然と俺の太腿に和の手が触れる。無意識の行動がヤバい………いや嬉しい………
やっぱり車にして正解、そう思った瞬間。
「俺も早く免許取ろう」そう言いながら離れていく手。
運転のドキドキと和の手のドキドキが相まって、思わず踏み込むアクセル。
これから三泊。和と朝も昼も夜も一緒。
楽しみすぎて、勝手に頬が緩む。
それに………車で来たのはもう一つ理由がある。
だって初めてなんだ。和より俺の方が先に経験を積んだこと。車の運転だけは、俺の方が和に教えられる。
一歩リードしてる俺を和に見せて、さっきみたいに格好いいなんて言われたい………
周りの車にどんどん追い抜かれながら、俺の野望はどんどん高まっていった。
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