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走って部屋に戻ると、ベッドの間に並んで座る圭さんと和の前に立ちはだかる翔さん。
適当に拭いた髪からは滴がぽたぽた落ちていて、水色のティシャツを青く染めている。
「圭!」
ただ一言名前を呼んだ翔さんに向かって、圭さんが自分のベッドにあったタオルを投げつけた。
「何してんだよ、髪の毛ビシャビシャじゃないか。それで拭け、風邪引くぞ」
「ああ、ごめん。ありがと」
勢いを削がれた翔さんは、圭さんのタオルを頭からかぶりゴシゴシと髪を拭く。
「夏希も濡れてる」
立ち上がった和が、俺にもタオルを貸してくれた。
「二人とも何をそんなに慌ててたんだ?」
圭さんの質問に、翔さんが一歩前に出た。
「俺、圭の連絡先を知らない」
「………そうだな」
「教えてくれ!」
「なんだよ、急に」
「だって、このままじゃ会えなくなる。俺達、友達だろう?もう4年もこうして一緒に夏を過ごして……」
「……………」
………友達、その一言は圭さんにとってひどく残酷かも知れない……
「来年は、ここで会えないんだぞ……だから……」
「……別にいいんじゃない」
圭さんは立ち上がると「俺、風呂に入るから……」それだけ言い残し、さっさと部屋を出ていってしまった。
その場に残された翔さんが、力なく自分のベッドに腰かけた。
「俺、変なこと言ったかな?」
タオルの隙間から顔を出して、俺達に向かって問いかける。
「………変なことは言ってないと思いますよ……まあ、だいぶ唐突だったけど」
「俺………夏希くんに言われるまで、全然考えてなかったんだ。来年以降のこと。ここに来なくなるってことは、圭とも会わなくなるってこと……」
「……………」
「夏になれば、圭とここで過ごすことが当たり前だったから……」
「……………」
「ここに来れば圭に会えたから、連絡先を聞こうとか思ったことなくて……なのに、なんだよ、あいつ。別にいいんじゃないって……友達だと思ってたのは俺だけか?」
翔さんが、圭さんのタオルで顔を覆った。
「………このタオル、圭の香りがする」
思わず和と二人顔を見合わす。
「不思議なんだよ。ここで同じ洗剤で洗濯して、同じシャンプーや、ボディソープで身体を洗ってるのに、圭だけは……圭の香りがするんだよな……」
「もしかして……他の人からは感じない香りですか?」
タオルを顔にあてたまま翔さんが、問いかけた俺を見る。
「うん……圭以外とも同じようにここで生活するけど、他の人からは感じたことないかな」
…………圭さんの香りか
俺は隣に立っていた和を引き寄せ、正面から抱き締めた。
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