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仁さんの叔父さんの農園は、半分が観光農園になっていて、お客さんがブルーベリー狩りを楽しめるようになっている。
そしてもう半分が生食用や、ケーキやジャムに加工されるブルーベリーを収穫するところ。
こちらは叔父さんのこだわりで、無農薬の粒の大きいブルーベリーが作られていて、一粒一粒キズをつけないように丁寧に収穫しているらしい。
粒が大きいと言っても、一つ一つ収穫するには大変な広さがある。
俺達の他にも、近所から収穫の手伝いに来ている人がいた。
低い木から、大きく実ったブルーベリーを選んで摘んでいく。こういう黙々とうちこむ作業は嫌いじゃない。無心に粒を摘んでいると、少し腰が痛くなって身体を伸ばした。
視線の先に、圭さんが見えた。長い髪を一つに束ねブルーベリーを摘んでいる。慣れているからか、俺よりもかなり速い動作で摘む姿はとても熱心に見えた。
意外に真面目に取り組むんだな……
そんな感想を持ちながら視線を横にずらすと、前からブルーベリーが入った籠を持って歩いてくる和。
あれは………
歩いてくるすぐその先に、何かに使ったあとだろうか、小さな脚立が横倒しに置いてある。
籠を両手で抱えて持っている和。気づくだろうか…………
俺は手に持っていた籠をその場に置き、和の方へと走った。
「和!危ない……」
そう声を掛ける寸前で、和を後ろに引く大きな人影。
籠を持った和を後ろから抱き抱えるように止めたのは、翔さんだった。
「危ないよ」
「あ、ありがとうございます」
完全に翔さんに寄りかかりながら顔を後ろに回して謝る和。
「農園の中は、結構いろんな物が置いてあるから気を付けて」
「はい」なんて微笑んでるけど………
早く離れて欲しい………
和は、ああ見えて運動神経がいいんだから、あんな風に引き寄せて助けなくても、声を掛ければ自分でバランスが取れたはずなんだ………
自分が一番近くに居なかった悔しさで、イライラを募らせていると「和君って可愛いね」いつの間にか、すぐ側に来ていた圭さんが呟いた。
「なんか………守ってあげたくなるタイプ?」
どうしてだろう………
褒めているようで、何か違う………
圭さんは言うだけいうと、すぐその場から離れまた黙々と収穫を始めた。
そのまま夕方まで続いた収穫。ほとんど無かった休憩時間。
やっぱり甘かった。二人きりになれる時間なんてないや………
遊びに来た訳じゃないことを、一日目にして思い知らされた。
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