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山の中腹にある農園での早朝からの作業で、まだ気温がそれほど上がってないと言っても夏の陽射しは結構強い。 昨日と同じように黙々と作業をしていても、汗がじわりと背中を伝う。 ここに来て二日目の朝だけど、朝食がたくさん出された訳が分かった。 これは体力を使う……… 水分を取りながら和の様子を伺う。するとどうやら、ペットボトルの水を飲もうとして、もう中身がないらしい。周りをキョロキョロと見回している。 俺は口をつけていたペットボトルに蓋をすると、和のところへ向かった。 「はい、これ、喉が渇くよね」 「ありがと、けっこう暑いよな」 額から汗を流して、水を飲む和の喉元がセクシーだ。口許に溢れた水を思わず指て掬った。 「なっ……夏希の水もこれで終わり?」 照れて目が泳ぐ顔が、今度は可愛い。 「クク……うん、叔父さんに和の分も、もらってくるよ」 口許を緩めながら、叔父さんのいる観光農園の方に歩き出すと、翔さんが俺と同じように圭さんにペットボトルを持っていく姿が見えた。 翔さんからのペットボトルを嬉しそうに受け取って飲む圭さん。 こうして見ると、実は凄く良い雰囲気の二人。 圭さんは昨夜の様子から、おそらく翔さんが好きだ。 じゃあ……翔さんは? 俺は昨夜の和への自分の想いと、圭さんの想いを重ねてしまったのかも知れない。 圭さんの想いが報われて欲しい………そう思い始めていた。 「おーい、昼ごはんよー」 水をもらう為に歩いている途中で、叔母さんから休憩の声がかかった。 一度叔父さんの家に戻ると、テーブルに用意された沢山のおにぎりとお味噌汁。 「いっぱい食べてね」 俺達4人に声をかけると、出掛けていく叔母さん。 「いただきます」声を合わせて言うと、おにぎりを手に取った。 「美味しそう!」 和と二人、すぐに食べ始める。少し大きめのおにぎりが旨い。 その塩分を口いっぱいに味わいながら前に座る翔さんを見ると、おにぎりを口に入れようとして止めている。 どうしたんだ? 不思議に思っていると、圭さんが持っていた半分に割ったおにぎりをさっと取ると、自分の持っていたおにぎりを手渡した。 そのまま交換した割れたおにぎりを、黙って食べ出す翔さん。 俺達の視線に気づいたのか、気まずそうに手渡されたおにぎりを口に入れる圭さん。 束ねられた髪の隙間から、紅く染まった耳が見える。 「こいつ、梅干し苦手なんだよ。でも、叔母さんには悪くて言えないんだよな」 俺達の動きが止まったことに、やっと気づいた翔さんが話す。 「………俺は別に、梅干しだって食べようと思えば………」 言い訳をしながら、もらったおにぎりをもぐもぐと食べる圭さんの頭に、翔さんの手が触れる。 「そうだな」 頭をぽんぽんと軽く叩きながら、あやすように言う翔さんの言葉が優しくて………… 俺は、なんだか嬉しくなった。
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