朝、白い月がキレイでした。たったそれだけ。

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会社へ向かうため家を出る。気持ちの良い朝。 空は冬の寒さをはらみ、凛と澄み渡っている。 団地の建物の奥に、白い月がはっきりと見えた。 鮮やかな水色の空に、表情がはっきりと読み取れる白い月。 そのコントラストが気持ちよくて、しばらく空を眺めていた。 どこか儚げで、でもしっかりとおしゃれを決め込んだお姫様のように、 その月は、存在感を放っていた。 そして、その輝きが心地よかった。 この一瞬の輝きに、心が、静かに共振する。 たったそれだけ。 たったそれだけのことに、心が震えた。 心が共振する。 ある時は、ピー、チー、ピー、チーさえずる、目白の楽しげな声に。 ある時は、時空を歪ませる、圧倒的な夕日の圧力に。 ある時は、芳しいコーヒーの香りと、心地よい音楽と空間に。 ある時は、金木犀の残り香と、地面に散った小さなオレンジ色の花びらに。 竹林を開拓した里山に風が吹く。心地よい風を体で受け止める。 絶え間なく続く波の音、潮の香り、足を濡らした海水の冷たさ。 親と行ったキャンプでの冒険。パチパチと爆ぜた焚き火の熱さ。 アスレチックで見た、一人で到達した子供の誇らしげな顔。 「あ。歩いた!」とヨタリと一歩踏み出した足。 たったの一歩。その一歩が運んできた抱えきれぬほどの大きな笑顔。 たったそれだけ。 すべてのことは、たったそれだけの積み重ね。 そして、共振がはじまると、 いろんな狭間で漂い、失った心が、ひょっこり震えて顔を出す。 あの人が奏でた音楽のように。 あの人が読み上げた言葉の粒のように。 あの人が紡ぎ出したお話のように。 あの人が描いた絵画のように。 あの人が作り出した空間のように。 共振したいと顔を出す。 だから、今日も、狭間でもがいている。 苦しさと楽しさを織り交ぜて、共振しようともがいている。 すべてのことは、「たったそれだけ」。 繰り返し、積み重ね、混じり合い。 そして、ここに、私がいる。 今日は、朝、空に浮かぶ白い月がキレイでした。 うん。たったそれだけのこと。 Fin
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