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「樹くん、どうしたの~?」
汐里は、先ほどよりも、樹が自分の手を握る力が強くなったことに気が付いたらしい。
「オレの仕事の時間までに帰らなきゃいけないからさぁ」
「そうだね。いいの見つかるといいなぁ~」
そう言って、汐里は自分の左手を見つめた。
右手の薬指には、恋人として樹からもらった指輪が既にはまっている。
今度は左手の薬指に付けるのだ。
ここに付けるのは更に特別な意味合いがある。
嬉しそうに微笑み、そして樹の方を見た。
「えへ」
「どしたの?」
「幸せなんだもん」
春の花畑のようなオーラをまとい、汐里が隣で笑っている。
どう考えたって汐里は樹の方を見てくれているのに、何だか今日の自分の心の狭さには嫌気がさす。
心に纏わりついていたもじゃもじゃの塊を消し去るように樹はパッと顔を上げて、そして言った。
「しおりん」
「なぁに?」
素直な瞳がこちらにきらきらした光を投げかけている。
「オレ、朝からちょっとダメな男だった。ごめんな」
「え?そうなの?」
「うん」
どうしたのだろうと不思議そうな顔をしている汐里に申し訳なさそうな表情を見せたあと、樹はふっと口元を緩めた。
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