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序章 ——
夜の森に、”なにか”が潜んでいる。
それは人の姿をしているが、頭に黒い袋をかぶっていた。顔に位置するところには、皺が深く刻まれた猿の仮面が張り付けられている。目にはぽっかりと真円が開き、ただ深い暗闇がのぞく。
”なにか”は一体ではなく、群れていた。あたりを取り囲む木々や茂みに点々と隠れ、山道を進む私をじっと見つめている。私が『なにも知らぬ愚かな子供である』ことを、確かめているのだ。
私は、それに気がついてはならなかった。
私がそれに気がついていることを、それらに気づかれてもならなかった。
背後に、残してきたものがある。大切なものだ。守らねばならなかった。しかし、私には力がなかった。だから私は、なにも気づかなかったふりをして、暗い森の中をただ真っ直ぐに歩く。
闇は味方だった。新月の夜の闇は深く、声さえあげなければ、私の頬を涙が伝っていることを、それらに気づかれることはない。
すべてをここに置いていこう。
すべてを陰で隠してしまおう。
いつか私は、彼らに……。
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