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喜んでくれたのかな。俄かに輝は嬉しくなった。
「僕はね、十月のお月見の時期に生まれたんだ。月が輝くように美しい夜だった、って。だから輝って名前になったんだよ」
「へえ、そうなんだ」
職員室の付近には児童の姿はまばらだった。他の子どもの気配がないのを見計らって、輝は思い切ってみた。
「春日さん、あのね、お願いがあるんだけど」
「うん、何?」
「あのね、あの、...うららちゃんって、呼んでもいい?」
触らなくても、自分の頬が紅潮していくのを輝は感じた。うららから返答のある、その数秒が、スローモーションに思えた。
「うん、いいよ」
「本当に?ありがとう。うららちゃん」
ちょっと不思議そうにうららは首を傾げながら笑みを浮かべていた。馬鹿だと思われていたのかもしれない。それでも輝は構わなかった。
その日を境に輝はうららを名前で呼んだ。班の他のメンバーは当初、怪訝そうに顔をしかめていたが、そのうち慣れたのか無視していた。あえて気づかぬふりをしていたが、おそらくあの面子には輝の気持ちはばれていただろう。
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