日常がなくなる

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 パジャマを投げ捨てて、制服を探す優花だが、制服がない。 「なんで、制服ないやん、ええっリュックは?テニスのラケットは」  いつもは、制服はハンガーに掛けてシェルフに引っ掛けてる。ラケットはそのシェルフに置いている。リュックはベッド横に置いてる。 だが、ない。洋服の山崩れを捜索したがない。  優花はまたベッドにペタンと腰をかけた。昨日、学校から帰宅時のことを思い出していた。 「めっちゃ疲れてたんや、昨日。部活終わり部室で横になって豆大福食べてたな。ほんで、みんな帰るでって最後一人になったんや。めぐりんも用事あるって先帰ったからな。ええー全部部室に忘れてるやん、私」  優花は床に突っ伏せた。自分のアホさ加減に嫌気がさしているのだ。制服はリュックの中。ジャージで帰ってきたのは覚えている。母親から 「明日着るんやったら洗濯機に入れときや」って言われたのは覚えてる。そして、着替えてから洗濯機に入れたのも覚えてる。 「もージャージで行くしかないやん」  優花は自分の部屋の襖を開けて、たったったと小走りで横の部屋である階段上りの四畳半、納戸のような八帖の板の間、八畳の両親が寝てる和室を突っ切って、物干場の窓を開けた。 「ジャージないやん、トレーナーもないやん、なんもないやん、どないなってんねんっ」  優花は太ももをパチンと叩いて畳に倒れ込んだ。物干しは南向きで日当たり抜群。昨日は粉雪がまっていたのに、季節が逆戻りしたような 暖かい日差しが優花をまったりした気分に誘ってくる。 「今日は休もかな。もーええやんな」  目を閉じて本格的に休みモードになっていたが、 「あかん、今日は試合があるやん」  優花は立ち上がるのもまどろっこしいのか闘牛のように自分の部屋へ突進して、すぐに洋服の山の中からジーンズとパーカーをノールックで引き当て数秒で着替えを済ませた。 愚痴りながら、ガタガタ鳴らして降りてきた。 「今日はお店休みやからスーパー銭湯に行くって言ってたけど、起こしてくれてもええやん。まぁ、いつも下から呼んだでって文句言われてるけどさ、えっお弁当ないの?」  こたつの上にお弁当を置いてくれてるのに今日はなかった。 「もう、お母さん…」   と言いかけて 「今日は休みやもんな、いつもお母さん忙しいから…」  思春期の子どもは、いつもは恥ずかしくて憎まれ口ばかりだけど、いないと素直な口になるもんらしい。
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