3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「最初から言ってるでしょ。私はリザーブNo.91986032916だって」
リザーブは斜に構えて勝ち誇ったように言い放った。
ここはネオン輝く未来都市のオシャレな空間ではない。
砂埃まう高校グランドの隅っこに建つプレハブ小屋のテニス部室。ボロいテニスボールや、使わないラケットが棚にひしめき合いながら埃をかぶってる。エアコンがないので扇風機と電気ストーブが隣同士に鎮座して、全く季節感を感じさせない放置部室空間だ。
「あはははは……お腹痛い」
優花はベンチに笑いながら寝っ転がった。砂埃の中でイキってるリザーブがツボに入ったようだ。
「何がおかしいの。あなたってホントにバカね。笑い事じゃないのよ。これから説明することは」
優花は笑いすぎて涙を流してる。
「えっ何?」
やっとベンチに座り直して話を聞く体制になった。
「だから、これからどちらかが消えるゲームの始まりなの」
ポカン顔の優花にリザーブは顔を近づけて、はっきりと言い放った。
「偽物だと見破られたら私の負け。偽物だと
見破られなければ私の勝ち。負けた方が消えるのよ」
「消えるって、死ぬってこと……負けたらリスク高すぎやん。なんそれ。やばっ。やめてよ。そんなゲームしたないわ。じゃあ、じゃあ、どーしてもやらなあかんのやったら、負けたら変顔にしーひん?」
優花は立ち上がって熱弁を繰り広げながら
狭い部室をウロウロし始めた。
「ホントばかね。同じ顔で変顔しても面白くもなんともないわ」
リザーブはまたパイプ椅子に座ってウロつく
優花を目で追いながら
「私はね、10年後最年少総理大臣、しかも女性初ってやつをやるためにあなたのリザーブになったの。日本を変えるためにね」
優花はピタリと足を止めた。
「無理無理無理、そんなん無理やって赤点ばっかりやのに」
リザーブに向けて左右に大きく手を振っていた。
「あなたじゃなくなるのよ。さっき言ったわよね。歴史上の人物にはリザーブがいるんだって
誰かはわからないけど。リザーブは他のリザーブを知り得ることはできないルールだから」
リザーブは立ち上がって、大きく伸びをしながら、足のストレッチもやりだした。
「さぁ、もう始まってるのよ。7時間以内に
私が見破られなければ勝ちなんだから」
「7時間って?」
「腕時計を見たらわかるでしょ」
優花は魔法のようにつけられていた、デジタル腕時計を見てみた。
6時間48分46秒
数字がどんどん減ってる。
「えっ、6時間47になってる」
「0になったらゲームオーバーよ」
「イヤやー」
優花は腕時計を見ながら減っていく数字を
みてパニックになっていた。
「優花ーまだ、部室にいるの、鍵あった?」
親友の町田 恵が部室を覗きに来た。
「めぐりーん、助けて」
優花がめぐりんに抱き付いたら、めぐりんの体をすり抜けて、勢いあまって転んでしまった。
「あったわぁ、マジ耐えた」
さっきまでとまるで違う、関西弁でリザーブの優花が返事をした。
「3限世界史、山源休みやって自習になったで」
「よっしゃーやばかったわ、宿題してへんかったんや。学食行こか」
めぐりんと、リザーブ優花は並んでグランドを歩いていたが、途中でリザーブ優花が手を叩いて大笑いしている。
「わたしやん」
優花はポツンと一人グランドに佇んでいた。
「あかん、あかん。時間ないやん」
優花は腕時計を見ながら、急いで二人の後を追ったが、優花の足元に砂埃はたたなかった。
最初のコメントを投稿しよう!