第3話 討論の末、一緒に寝ることになりました

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第3話 討論の末、一緒に寝ることになりました

 リュミエットは自室で寝る準備をしていた。 (もうっ! まったくなんで一緒に寝なきゃいけないのよ。子どもじゃあるまいし……)  彼女の黄金色の髪がふわっと靡いた。  そうして、リュミエットは扉の近くに向かうと声をかけた。 「ギルバート、もう入っていいわよ」 「かしこまりました」  ノックの後で入ってきたギルバートはいつも通り執事服のままだった。 「あら、あなたは着替えないの?」 「とんでもございません。何かあった時にお嬢様をお守りできませんから」 (それが彼の職務だってことはわかっているけど……)  リュミエットはなんとなく申し訳なく感じてしまう。  そんな彼女の様子に気づき、ギルバートは微笑んで言う。 「大丈夫ですよ。わたくしのためにご心配、ありがとうございます」  ギルバートの言葉に、リュミエットは恥ずかしそうに目を逸らして言う。 「べ、別に。まあ、あなたがいいならいいんだけど、その……遠慮しないでね」 「ふふ、ありがとうございます。それよりお嬢様、僭越ながら……」  ギルバートはにっこりとした表情で、リュミエットに告げる。 「胸元が少々はだけすぎかと」 「なっ!!」  リュミエットの夜着は紐が緩んでおり、胸元が開いていたのだ。  彼女はなんとか自分で直そうとするが、紐が絡まってうまくできない。 「お嬢様、お手伝いしましょうか?」 「いい! 大丈夫! 自分でできるから!」  そう言ってなんとか自身の背中に手を回すも、うまく紐が取れない。 (うぅ……。さっきクローゼットで探し物した時に何か引っかかったと思ったけど、この紐だったのね)  苦労する様子のリュミエットにギルバートは声をかける。 「お嬢様、降参くださいませ」 「い・や・よ! あなたに触らせたら、なにするかわかったものじゃないわ」  リュミエットはなおも意地になって紐を取ろうとする。  が、どうやらダメなようだ。  そして、数分格闘した後、リュミエットはか細い声で名を呼ぶ。 「ギルバート」 「なんでしょうか」 「………………紐をとってちょうだい」 「かしこまりました」 (ああああああ!!!!!! その勝ち誇った顔が憎らしいっ!!!!!!)  ギルバートの助けによって、リュミエットは夜着を整えることができた。  そうして、ようやく寝る準備に差し掛かった時、リュミエットはメイリンから借りてきた紐を床に一直線に置き始めた。  壁から壁までその紐を引き、部屋を二分すると、腰に手を当てて告げる。 「いい!? 一歩でもこの線から入ったらダメだからね?」 「ええ、わかっておりますよ」  自分の領地を確保したリュミエットだったが、ちょっと不安になってギルバートに声をかける。 「本当に、私がベッドでいいの?」 「もちろんでございます。主人をソファで寝かせる執事がどこにおりましょうか」  そう言って、ギルバートはソファの目の前で微笑んだ。 (昔みたいに一緒に寝よう、なんてもう言えないわよね)  彼の好意に甘えて、リュミエットはベッドへと入った。 「おやすみなさい、ギルバート」 「ええ、おやすみなさいませ。お嬢様」  彼の存在を気にしながらも、リュミエットはゆっくりと目を閉じた──。  何か夢を見ているような、そんな心地がした。  リュミエットはぼんやりとした意識の中で、何か物音がしたような気がして目が覚めた。 (ん……ギルバート?)  彼が寝返りでも打ったのだろうか。  そんな風にリュミエットは思ったが、なんとなく違和感を覚えて起き上がった。  ソファにはギルバートの後ろ姿があるのが見えた。 (気のせいかしら……)  ふとリュミエットは窓の外を見た。  まだ暗く月が見えており、風がよく吹いている。  カーテンがひらひらと風に揺れており、冷たい夜風が自身に当たって脳が覚醒していく。 (今日は少し肌寒いわね…………ん?……夜風?)  リュミエットは違和感の正体に気づいて背中をぞくりとさせた。  そう、閉まっているはずの窓が開いていることに気づいたから──。
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