第4話 トラブル令嬢と専属執事の危ない共闘

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第4話 トラブル令嬢と専属執事の危ない共闘

 冷たい夜風がカーテンをひらひらと揺らしている。  不自然に開かれた窓は、リュミエットに「異変」を知らせていた。 (なんで、開いてるの?)  そう思い、扉の方へと歩いていく。  その瞬間、リュミエットに向かって閃光のように早く何かが向かってきた。 「あっ!」  それが「敵意」の向けられたものであると気づいた時には、リュミエット自身の目の前に影は迫っていた。 「きゃっ!」  リュミエットに影が襲い掛かるまさにその瞬間、ギルバートが立ちはだかり、彼女への攻撃を受け流して相手を弾いた。 「ギルバートっ!!」 「たくっ、相変わらずトラブル体質ですね、あなたはっ!!!」  リュミエットを自身の背中に隠し、ギルバートが影と対峙する。  その影は夜目が効くようで、状況を察知すると、すぐさま何かを取り出した。 (ナイフっ!?)  闇の中でナイフの刃が光っていた。  それは真っすぐにリュミエットを狙うも、ギルバートの細く長い足が薙ぎ払った。  金属の音が部屋に鳴り響くと、その隙を見逃さずにギルバートは黒い影の懐に入って手刀で相手のみぞおちを狙った。 「ぐはっ!」  苦しそうな声と共に、黒い影の人物は床に突っ伏して伸びた。  彼の様子を見て、ギルバートは一息ついた。 「お嬢様、お怪我はございませんか」 「ええ、大丈夫」 (よかった、ギルバートも怪我してなさそうね)  リュミエットも安心して、彼の元に近寄ろうとした。  だが、リュミエットは異変に気づき、声をあげる。 「危ないっ! ギルバート!!」 「ぐっ!」  黒い影の人物は突っ伏したように見せ、下からギルバートの急所を狙っていたのだ。  彼は隠し武器でギルバートの顔を狙うも、ギルバートは寸でのところでそれをかわす。  しかし、少し遅かったようでギルバートの頬にはうっすらと切り傷のようなものが入り、血が流れ出た。 「ギルバートっ!!!」  その瞬間、リュミエットの鼓動がドクンと跳ねあがり、目が赤色へと変化していく。  リュミエットの「それ」に気づいて、ギルバートは声をあげる。 「お嬢様っ! いけませんっ!!」  しかし、その声はリュミエットに届かない──。  リュミエットの瞳が完全に赤くなった時、彼女の髪が風で大きく巻き上がった。 「なっ!!!」  リュミエットが発する神々しい光で、黒い影の人物が照らし出された。  この世のものとは思えない何かを見たような、そんな表情で彼はリュミエットを見つめる。  そんなことはお構いなしに、リュミエットは彼に告げる。 「よくも、うちのギルバートを傷つけてくれたわね?」  リュミエットの真紅の瞳は、敵を真っすぐに見据えている。  彼女は胸の前で祈るように指を絡めると、目を閉じて祈って唱えた。 「汝、我が命に従え。神聖なる力よ、悪に裁きをっ!」  その言霊を唱えた瞬間、リュミエットから白い光が放たれ、敵に向かって一直線に攻撃が放たれた。 「ぐあああああーー」  白い光は敵を包み込んで、そのまま彼の意識を奪った。  もう、彼から攻撃の意思は感じられない。  リュミエットはふっと目を閉じて、再びゆっくりと目を開いた。  その瞳はサファイア色に戻っており、ギルバートを映し出しだしている。 「ギルバート!!」  リュミエットは傷を負ったギルバートに駆け寄った。  心配そうに見つめるリュミエットの頬に、ギルバートは手を添えて告げる。 「たくっ、『聖女の力』はむやみに使っては、お嬢様の命をおびやかすから控えるようにと、約束したでしょう」 「でも、だって、ギルバートが……」  少し涙目になるリュミエットに呆れながらも、ギルバートは優しい手つきで彼女の頭を撫でた。  そして自身の人差し指を彼女の口元に持っていき、彼はこう言った。 「その力は俺だけにしか見せちゃいけませんからね?」  リュミエットの顔が真っ赤になっていく。  今まで感じたことがない色気漂う表情に、リュミエットは思わずドキリとしてしまったのだった──。  その後、リュミエットの部屋に忍び込んだ賊が料理長を襲った犯人であったことが取り調べによって判明した。  ミラード家の金庫を探していたところ、料理長に見られたと思い込み、犯行に及んだのだという。  リュミエットを狙ったのは、彼女が犯行現場に駆けつけた際にまだ現場近くにいたその姿を見られたと勘違いしたから。  ともかくとして、賊は王国警備隊によって捕えられ、裁きを受けることになるだろうとのことだった。  翌日、リュミエットは帰ってきたミラード侯爵と侯爵夫人に、それはそれは心配されたそうだ。  そうして、今日もリュミエットはいつものように優雅に紅茶を嗜んでいた。  よく晴れた外を見ながら、彼女は呟く。 「ギルバート」 「はい」 「ありがとう」 「なにがですか?」  ギルバートもいつものように紅茶を注ぐ。  リュミエットは窓の外から見える庭を眺めて言う。 「私を助けてくれたこと、ありがとう」 「執事ですからね」  リュミエットはその言葉を聞いて少し悲しい表情を浮かべた。  そうして、振り向きざまについ口を突いて言ってしまう。 「執事だから守るの?」 「え?」  彼女の言葉が予想外だったからか、ギルバートの手が止まった。  リュミエットは、か細い声で呟く。 「ただの女の子だったら守ってくれない?」  リュミエットの瞳が、真っすぐにギルバートを見ている。  座っているリュミエットとそんな彼女の傍に控えているギルバート。  必然的に、リュミエットは上目遣いになっていた。  ギルバートが言葉を発しようとした時、リュミエットは自分の発言が恥ずかしくなって目を逸らし、慌てた。 「ご、ごめんなさい! 私、そんなこと……」  しかし、ギルバートがリュミエットを離さなかった。  彼の手はリュミエットの顎に添えられ、そしてくいっと持ち上げた。  そうして、彼の甘ったるい声がリュミエットの耳に届く。 「ふふ、私はずっと昔から、あなたしか見ていませんよ」 「え?」 「さ、紅茶のおかわりを入れましょうか」 「え!? え!!? 今、なんかさらっとすごいこと言ったよね? え!? もう一度言って!?」 「言いません」 「言って」 「言いません」 「えええええーーーーー!!!」  そんな彼女の叫び声が、屋敷に響き渡った──。
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