恋される、ほろにがクッキー

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「振られたけど、この想いを大切にしたい。つらいけど、誤魔化すことはしたくない。いつか彼女が振り向いてくれるぐらい自分に自信をつけて……その時また告白するつもりだよ」  そう、自分自身にも他人にも誠実な岡部先輩が好きなんだ。  私はクッキーを下げ、笑顔で「ありがとうございました!先輩、応援しています!」と部室を後にした。  そして教室で美琴に抱きつき、大声で泣いた。  訳がわからないながらも一緒に泣き出した美琴と一緒に、クッキーを食べた。  苦くてほのかに甘い、ちょっと大人の味のコーヒークッキーだった。  ―――数か月後。 「違う。これも美味しいけど、ちょっと違う」  美琴は眉間にシワを寄せながらも、新しく作ったコーヒークッキーに手を伸ばす。 「えー、レシピは一緒だよ。ただコーヒーはスーパーで買ったやつだけど」  そんな会話をしていたら、またクラスの男子たちの手が伸びてきて、クッキーはあっという間に無くなった。 「うん、前の方が美味しいな」と偉そうに言う彼ら。  しかし「そうか?確かに風味が違う気がするけど、コレも美味いよ」という声がした。 「……涼真、アンタも前のやつ食べていたの?」 「何?食べちゃダメだった?」  動揺する涼真。涼真は普段から私に優しい男子。 「ううん、食べてもいいけど……」  岡部先輩に出会っていなければ、私は涼真が好きだったかもしれない。  そして何分何時間経っても、彼らの態度が甘々になることは無かった。  そういえば、前のクッキーを食べた時の涼真からは告白や甘く優しい言葉は貰っていないな、と気がついた。  (了)
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