忘却不日

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今日は2月14日。基本今日が何日かなんて朝起きてぱっと分かることではないと思うが(自分は分からない)今日は自然と日にちが分かってしまう。 何故かと言うと… 「トゥデイイーズ…ッセントバレンタインズデー!」 テレビやラジオ、全てにおいてバレンタイン一色に染まっていた。 どこのチャンネルに回しても、オススメの本命チョコ、告白の方法etc… 俺、高木健太郎はというと、女の子と付き合ったこともないどころか喋ったこともあまり無いような陰キャと呼ばれる類だ。 いつもと変わらない朝ごはんを食べ、身支度を整えて玄関へ向かう。 「いってきます」 「けんちゃん、チョコ貰えるといいね!行ってらっしゃい」 母さんごめんよ。俺、女子と関わりが一切ないんだ。 そう心の中で呟きながら玄関を出る。 そして、いつも通り本を読みながら歩いて数分もしないうちに学校へついた。 クラスに入るとバレンタインということもあって、男子も女子もソワソワと浮かれ気味であった。 ホームルームまで10分少し。もう少し読めるな。 再び本に目を落とした。 この小説、ミステリーホラーでなかなか面白いんだよな。確か、鬱血さんという最近話題の作者さんが手がけた小説らしい。かなりハマりそうだ。 「あ、あの」 「…はい?」 急に声をかけられたのでワンテンポずれた返事になってしまった。嫌に思ってないといいんだけど。 「これ、高木くんに…」 そうクラスメイトの女子、佐藤希さんが差し出していたのはハート型のチョコレートだった。 「お、俺に?」 顔を真っ赤にして恥ずかしそうに頷く佐藤さん。 いつの間にかクラスは、しん、と図書館にいるような静けさになっていた。 「高木くんかわいそー佐藤さんからのチョコもらっちゃうなんてー」 「超不味そうだよねー!」 そう騒ぐのは自分たちをカースト上位と信じて疑わない女子どもだ。 佐藤さんは落ち着いてるがゆえ、彼女たちは佐藤さんを気に入らないんだろう。 「高木くん、そんなチョコお断りしなよー!」 「せっかくのバレンタイン、ハズレくじ引いちゃったねー!」 ギャハハと品の無い笑い方をする女子ども。 佐藤さんに目をやると今にも泣き出しそうで、目にいっぱいの涙を貯めていた。 「ありがとう」 そう一言いい、チョコを受け取る。直ぐに包装を解き、口に入れた。 「とっても美味しい。返事は、オーキードーキー!ってことで…いいかな…」 キザっぽく決めてみたかったが、言ってる途中に自分から恥ずかしくなっていた。 「あ…ありがとう、健太郎くん」 クラス中拍手が湧き上がった。中で男子は「高木、やるじゃん!」「かっこいいぞ」という声もくれていた。 先程の女子どもはバツが悪そうに目を背けていた。 母さん、今日の帰りは嬉しい報告が2つも出来そうだよ。 希さんにハンカチを渡し、それを使って彼女は拭う。 幸せな2月14日が始まった。
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