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なにかいると思うから、なにかが見えてしまうというのはよくある話だ。
キッチンシンクへ水滴がトン、と落ちる音が聞こえてきた。これも、なにも不思議なことではないさ……。蛇口をしっかりとしめてなかっただけの話だ。
ソファへ腰を下ろし、いやにシーンとしているリビングの様子を伺う。なんだか、遠くの小さな音も耳に入ってくるようだ。冷蔵庫の「ブーン」という稼働音がうっすらと聞こえてくる。
自身を落ちつけようと努めるが、どうにも体の震えが止まらない。
テレビでも付けて気分を紛らわせようと思いリモコンに手を伸ばす。電源ボタンを押しても、テレビは点かなかった。
電池切れか……? 仕方ないので、そのままソファの上で居直った。ベランダのほうにはカラスが静かに佇んでいるのが目に入った。
カラスが気になったわけではないが、何となくそちらから目を背ける。そうすると、ベランダの反対側に位置する、さきほど通ってきた廊下を見ることになる。オレンジの明かりが点いている。
あぁ。廊下の照明を消し忘れていた。だれも居ないところは消しておかないとな……。
体の震えも止まらないし、ソファから動きたくはなかったが、そうも言っていられない。のそりと体を起こし、廊下への扉へ近づく。
リビングと廊下を仕切る扉を開くと同時に、玄関の扉も勢いよくガチャリと開いた。
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