震えるアパート

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 自宅のアパートの扉を開ける。その直前から、確かに違和感はあった。明らかに何かがおかしい。  いつもの玄関の景色。入って左の靴箱の上をみれば、旅行先で撮ったツーショットが収められたフレーム。地方の自治体のキャラクターのぬいぐるみはおどけたような表情でこちらを見ている。それから、宅配に対応するためのハンコが入ったケース。いつもと変わりはないはずだ。  目には見えないが、どうにも様子がおかしい。いつもなら、帰ったらすぐに脱ぐ冬物のコートだが、今日は脱ぐ気になれない。なんとなく、根拠は全くないが、このコートが身を守ってくれる。そんな気がした。  まだ真っ暗で様子がよくわからないが、この廊下を進んで、奥を確かめなければならない。そう思うと体の震えが止まらない。  とりあえず、コートは着たままで、廊下の照明ボタンを押す。ふわりと暖かさを感じるような薄いオレンジ色の光が辺りに広がった。光の広がりに合わせて、視界の端で何かが動いたような……。いや、これは気のせいだろう。  革靴を脱いで玄関で揃える。長い期間履いていた革靴は、くたびれて見えた。手入れをしないといけないな……。
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