雪降って、地固まる

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 私は少し体調が悪くてという、あまりにもありふれた嘘で美術室を抜け出した。なるべく静かに早歩きで教室から離れると、すぐに走って3階の自分の教室へと階段を駆け上がった。私は既にドクドクしている心を落ち着けるため、今日の作戦はきっとうまくいくはずだと自分に言い聞かせた。  昼休みが終わった5時間目、今このタイミングに仕掛ければ、放課後彼以外に見つかることはないだろう。それに今日彼は委員会があるから、帰りはきっと1人になる。  大丈夫。大丈夫。全ては小説のとおり。  私は到着した教室の扉をそっと開ける。  すぐロッカーに向かうと、世界史の資料集の間に挟んでおいたチョコを取り出す。自分のロッカーから物を取り出しているだけなのに、妙にいけないことをしているかのような気持ちに駆られる。 「はぁはぁ……んっと……」  普段の運動不足を思い知らされる。 「型崩れとかは……ない、よね。よし」  私はそれをワイシャツとカーディガンの間に挟み込んだ。  階段を駆け下り、1階に戻ってきた私は、一瞬美術室の内田君と目が合ったような気がしたが、チョコさえ見られなければ大丈夫だと、そのまま昇降口へと向かった。  「ふぅ……はぁはぁ……」  呼吸が乱れ、息が漏れ出る。 「えっと……。一番上は全部空きだから……ここ、だよね……」  自分以外の下駄箱を開けたことがないため、迷ってしまう。  下駄箱の上にはほうきやちりとり、それに中に入らないのかハイカットの靴、また何に使うのかスコップやシャベルまで乱雑に置かれていた。 「せんせぇーー!! これを2階?」  その声に焦った私は、万引き犯かのように、意味もなくあたりをきょろきょろしてしまう。慌てて空の下駄箱にチョコをセットし、私はすぐにその場を離れた。  私はその足で、白々しく、美術室の半開きのドアを開けた。  体調については、お手洗いに行ったら治りましたとでも言っておこう。  ***  昼休み、僕はいつも通り図書室に来た。これは2年生になってからのルーティーンだ。  静電気に軽く攻撃されつつドアを開けると、バレンタインデー特集と書かれたポップが出迎えた。 「ああ……」  自分にはあまり関係のないことだと思いつつも、僕はその展示に引き寄せられた。 「へぇー」  どうやらこの世には様々なバレンタインデーに関する本があるらしく、ベタな恋愛ものから本格的な推理小説まで千差万別だった。折角なので、どれか借りようかと考えつつも、あまり見過ぎるとバレンタインデーガチ勢だと思われそうなので、さっさといつもの特等席へ向かう。  席に着き、ノートを開くと、昨日書いた感想文を読み直す。感想のどの部分を伝えるべきか頭を巡らせる。  「いつもありがとうございます」と、はきはきした声が聞こえてくる。同じクラスの塩野さんだ。塩野さんは、僕が座っている席から斜め奥に位置するカウンターで、ほぼ毎日、本の貸出しをしている。  2年生から塩野さんと同じクラスになったが、正直本が好きで、ほとんどメイクをしていないということ以外に僕は情報をつかめていない。あとは、読んでいる本に、必ず三色団子が描かれている謎のカバーを付けていることだけか。 「うーん……」  僕はまたノートに視線を落とし、悩み始める。  しばらく悩み、考えがまとまると、僕はノートと一緒に持ってきていた本をついでに読んだ。  気が付けば図書室は、僕と塩野さんだけになっていた。昼休みはあと5分。  僕はいつものとおり、塩野さんに話しかける。 「塩野さん」  返事がない。ただの屍のようだということはなくて、全然顔色とかはいいのだが、視線が本を捉えているようで、その下のカウンターをぼやっと照らしているようだった。 「塩野さん?」  さっきよりもう少しだけ大きな声で呼びかける。 「えっ!? いつもありがとうございます」  驚いたのか、塩野さんは本をカウンターに落としてしまう。反動でカバーがずれ、本の表紙が現れる。僕はその本を見たことがあった。というか最近、妹に無理やり読まされたばかりだった。 「いやっ、本を借りに来たんじゃなくてさ。てかその本、うちの妹も読んでたよ」  内容としてはまさに今の時期、バレンタインデーをテーマにした恋愛小説だった。主人公の女の子が、恋する男子の下駄箱にチョコを仕掛けたものの、その2人はばったり帰るタイミングが重なってしまい、結果直接思いを伝えることになるという、直球火の玉ストレートみたいな話だった。 「えっ!?? あっ、これは違くて!」 「あっ、何読んでるとか知られるの嫌だよね……」 「あっいや、……ごめん。妹さんも好きなんだね……」  なんだかとてつもなく気まずい空気にさせてしまった。何とか話を変えようと、僕は借りていた本の話をしてみる。 「塩野さんに借りた本、めっちゃおもしろかったよ!」 「ほんと? それは嬉しいな......」  塩野さんはどこかほっとしたような、優しい表情になる。 「特にさ、やっぱり最後実は主人公が女の人だって分かるところがさ!」 「うんうん! そうだよねっ! 私もびっくりした!」  どうやらさっきの気まずさは、一瞬にして払しょくできたようだった。 僕がもう少しだけ話を続けようとすると、味気のない予鈴が邪魔をした。 「戻らないと」 「うん」 「もし……塩野さんがよければ、だけど……またおすすめの本、貸してくれないかな?」  僕は借りていた本を手渡しながらそう言った。 「いいよ! 内田君に本好きになってもらえてうれしいよ」  塩野さんは屈託なく笑った。  ***  昼休みが終わり、僕は急いで美術室に向かった。  教室に入ると、僕は前の机に置いてある分厚めの画用紙と、粗く削られた鉛筆を取ってから、適当に空いている席に座った。  先生はまだ教室に来ておらず、クラスのみんなはざわざわと話をしていた。  それとなく周囲の声に耳を傾ければ、ぽつん、ぽつんとバレンタインデー、チョコの単語が飛び交っている。とりわけクラスの男子たちは、誰が誰からチョコをもらったのかということを周囲の人間に聞かせるかのように、お互いをいじり合っていた。そのような仕打ちを受けなければならないなら、僕はもうチョコなんていらないと少しだけ思ってしまう。  最終的に、チョコを渡した女子とそれをもらった男子だけが、何が違うのか分からないが、必死になって「違う!」と弁解する流れになっていた。  のそりと、近所の人が間違えて学校に入ってきてしまったかのように、おじいちゃん先生がやってきた。 「静かにね。もう号令はいいので、今日皆さんには人物画のデッサンをしてもらいます」  おじいちゃんはそう言うと、名前の順で二人一組になるように指示をする。 「はぁ……」  そうなると僕は彼とペアになってしまう。 「おう! 内田! よろしく!」  さわやかに、颯爽に、持ち前の大きな目をキラキラと輝かせながら、青山君は僕にそう言った。僕の出席番号は2番で、青山君は1番だった。 「よっ、よろしくね」  そして僕は、周囲の女子からの「私だって青山君と2人でデッサンしたかったのに。というか私を青山君に書いてほしかったのに」という視線を一身に浴びながら、青山君とのデッサンを始めた。  ***  僕は確実に気まずい時間を過ごすことになるかと覚悟を決めていたのだが、意外にも青山君とのデッサンはそれなりに会話が弾んでいた。さすがはクラスの人気者といった感じで、ほとんど僕が話さなくとも、青山君が話をつないでくれるのだ。僕はそのことに感謝しつつも、少し心がざらついた。 「内田さ、今デッサンどんな感じ?」  僕は画用紙を青山君に向ける。 「それ俺か!? さすがに別人過ぎないか?」 「絵苦手でさ……」 「そうなのか。うーん、でもなんかその絵雰囲気あるな」  僕の些末な絵を見ても、青山君は怒らない。さっきから少し見えているが、青山君は絵だってうまかった。僕はどうにも嫉妬心で死んでしまいそうだったので、違う話を青山君に振ってみる。 「青山君今日委員会って言ってたっけ?」 「そうそう! ちょっと先輩に呼ばれちゃってさ。いつも部活が忙しくて顔出せてなかったから、今日は行かないとまずいんだよね」 「ああバスケ部か」  青山君はバスケ部でも当然のようにエースだった。  神は全然、これっぽっちも平等ではない。 「内田も放課後委員会あるって言ってたよね?」 「あっ、そうそう。僕もたまたま――」  ガタッと音が聞こえると、塩野さんが突然立ち上がった。  先生と少し言葉を交わし、入り口近くに座っていた僕と青山君をちらりと見ると、急いでドアを開け、塩野さんは速足で美術室を出ていった。 「塩野? 大丈夫かな?」  どんなときでも青山君は優しくてかっこいいスタンスを崩さない。というかこれがきっと素なのだろう。  その後、おじいちゃん先生は僕と同じ保健委員の多田さんを呼んだ。さっき図書室で話していた時は、とても元気そうに見えたのだが。  それにしてもなぜだろう。保健室もお手洗いも1階にあるというのに、塩野さんは急いで階段の方へ向かったのだった。  ***  僕は塩野さんのことを心配に思いながらも、青山君とデッサンを続けていた。 「そうなんだよ。だからさ、今日帰るとき多分1人なんだよなー。内田一緒に帰らない?」 「僕っ? あっ……うん。帰るタイミングが同じだったら」 「おっ、まじで? じゃあそうしよ!」  こんな日に何が悔しくて、僕はクラスで一番のイケメンと帰り道を共にしなければならないのだろうか。もし「内田はチョコとかもらった?」とか聞かれたら、ショックが大きすぎて、そのあと一言も話せなくなる自信があった。 「あれっ?」  ドアの隙間から、猛スピードで階段を駆け下り、そのまま下駄箱の方へと向かっていった塩野さんが見えた。一瞬ではあったが、僕は少しだけ塩野さんと目が合った気がした。 「どうした??」  青山君が僕を見つめる。 「いやっ、なんでもないよ。それよりさ青山君って外でもバスケットシューズ履いてる?」  別に嘘をつく必要もないのだが、なぜだか塩野さんのことを言ってはいけないような気がして、僕は話題をそらした。 「急だな! あああれな。底がすり減ったバッシュ捨てんのもったいないからさ、外履きにしてんだよ」 「そうなんだ。いつもかっこいい靴履いてるなって思ってさ――」  僕が必死に関係ない話を続けていると、何事もなかったかのように塩野さんは美術室に戻ってきた。  ***  授業が終わり、僕はデッサンをみんなから回収すると、後ろの棚にしまった。あっという間に1人になってしまった僕は、他の人のデッサンを少し盗み見て、なんとなく机と椅子を整理整頓し、電気を消してから教室を後にした。  教室を出ると強烈な寒さに襲われた。顔が少し張り、鼻がツーンとするような寒さだ。  廊下は時が止まったかのように、静かだった。  僕はふと昇降口の方へ目をやると、いつもの校庭は真っ白に染められていた。僕たちがデッサンをしている間に、外では今年初の、いや何年ぶりだろうか、雪が降り始めていたのだった。  物珍しさから、僕は玄関先まで吸い寄せられた。  久しぶりの雪に目を凝らし、僕ははぁーっと白い息を吐き出した。  確かに校庭が一面、白くなってはいたが、まだガトーショコラにかかっている粉砂糖くらいのものであった。  キーンコーンカーンコーンと間の抜けたチャイムが聞こえてくる。 「やっばい」  もう既に予鈴ではなかった。  僕は焦り、踵を返す。 「いたっ!」  間の抜けたことに、半開きの下駄箱の扉にぶつかってしまう。僕は急いで教室に向かおうとしたが、その下駄箱の中身に動きを封じ込められてしまう。 「チョコじゃん……どう見ても……」  なぜか本物のチョコを目の当たりにすると、自分の物ではないことだけがはっきりしていて、ショックを受けることが分かった。 「この下駄箱って……」  青山君の下駄箱だった。これはもう必然というか当然だった。  青山君がいつも履いているハイカットのバスケットシューズが、下駄箱の上から僕を見下ろす。  無音の昇降口で、万引き犯のようにあたりをきょろきょろしてから、僕はそっと中身を覗いた。チョコを包む透明な包装紙には、塩野よりと書かれた手紙が同封されていた。  僕は特大の木槌で頭をふっとばされたような衝撃をうけ、何も見なかったことにしようと、自分の教室を目指し、ふらふらと階段へ向かった。  ***  教室の中は大雪の話で持ちきりだった。  クラスのみんなは、スマホで写真を撮ったり、校庭に行ってみないかと画策したりしていた。皆が浮足立っている中、自分の席に戻った僕は、上から下に落ちていく雪をただただ見つめていた。もちろん、隣の塩野さんに声をかけることはできなかった。  なぜだか少しだけ、塩野さんの顔が暗いように見えた。 「遅れてごめんねー。いやー雪凄いね」  そう言って教室に入ってきたのは、確か1年生で、副担任をやっている新人の先生だった。 「ちょっとみんな聞いてねー。安田先生は今日急な体調不良で、もう既にお帰りになりました」  クラスは一瞬ざわつくと、この現国の時間はどうなるのかとすぐ静かになる。 「なので、とりあえず今日は自習です! あぁもうすぐ騒がないっ!」  クラスは歓喜に包まれた。  学生にとって自習とは、それすなわち自由時間であった。 「はーい。でももちろん安田先生からはこんな時のためにということで、プリントを預かってまーす!」  みんなは分かりやすく落胆する。 「はいっ、じゃあ今日預かっているのは、センターの現代文ですねー。皆さんいつか受ける試験ですから、腕試しでやってみましょ」  先生はそう言うと、プリントを手際よく仕分け、各列に配布していく。 「えー。じゃあこれ頑張るからさ、終わったら外行ってもいい?」  クラスの男子から声が上がる。 「外?」 「雪遊びしよ?」  さっき校庭に行こうと画策していたクラスメイト達が、先生に提案する。 「もう、雪くらいではしゃがないの」 「だからプリントはやるからさ! いいじゃん! いつまでも子どもの気持ちを大切にって感じで」 「そうそう! いいじゃん!」  最初は一部のクラスメイトが提案していただけだったのに、久々の雪に、意外にも他の人たちもテンションが上がっているらしかった。  教室はすぐに「ちょっとくらいなら良くない?」という意見で埋め尽くされていった。 「ああもう、分かったから! 安田先生もプリントやったら後は自由でいいって言ってたから。ちょっと雪見に行くくらいならいいよ」 「やった!!」  クラスは今日一番の盛り上がりを見せていた。でも隣の塩野さんは僕と同じく俯いていた。 「でも皆さん、他のクラスは授業中なので騒がないように。いいですか?」 「はーい!」  こうして宿題が終わったら外で遊んでもいいという、なんとも小学生チックな約束が交わされた。 「あと! 絶対に雪とか泥とか落としてから昇降口戻ってね! 汚れてたら私が掃除させられるんだから。」 「先生も大変ですね!」  青山君が茶々を入れる。 「青山くん! 今日もまたバッシュ下駄箱の上に置いてたでしょ! あれも汚れちゃうから止めてね!」  なぜか隣の塩野さんは一瞬だけはっとすると、また机を見つめるようにうつむいてしまう。 「ごめん! 後で突っ込んでおくからさ」  先ほどそのバッシュに見下ろされていたことを僕は思い出す。  もう全てのことがマイナスに感じられてならなかった。  やっぱり塩野さんの顔色が少し悪いように見えた。  ***  なぜ今日に限って、雪が降るんだ。  なぜ今日に限って、先生の体調が悪くなるんだ。  ああもう本当に、私は自分を呪ってやりたかった。  やっぱり小説みたいに上手くはいかないんだ。というかそもそも、私の作戦は最初から失敗に終わっていたんだ。  ***  僕は配布されたプリントを一瞬で解き終えた。これは決して僕が天才なわけでもなんでもなくて、たまたま解いたことがある問題だったのだ。正直今の僕にとって、こんなラッキーはどうでもよかった。  当然クラスのみんなはまだ問題を解いていた。というか早く雪とたわむれたい一心からなのか、いつも以上に真剣に取り組んでいた。  隣の塩野さんはいつもどおり真面目にプリントを進めているが、やはり明らかに顔色が悪く、問題にも集中できていないように見えた。僕は塩野さんを心配に思いながらも、どうしても、さっきの昇降口での衝撃を思い出さずにはいられなかった。 「うーん......」  僕はまるで現代文の問題に対する疑問かのように小さくつぶやいた。  それにしても下駄箱にチョコ、それに手紙付きなんて塩野さんもなかなか大胆だなと思った。そのチョコを渡そうとしている相手はあの青山君。僕とは似ても似つかない。僕と一緒なのはデッサンのペアと、今日委員会に出席するくらいのもので、それ以外は何もかもが違う。 「ん?……あれっ……」  下駄箱にチョコ、手紙、青山君は放課後委員会で、帰りは1人。これって。 「あっ!!」 「静かに。問題が解けたのは分かるけどね」  先生に注意されてしまう。 「すみません……」  クラスのみんなはくすくすと笑っていた。しかし今僕にとって、そんなことはどうでもよくて、何とかして塩野さんを助けなければならなかった。  気づいた時には、僕は勢いよく席を立っていた。 「先生! 隣の塩野さんの体調が凄く悪そうなので……えっと僕……保健委員なので! 塩野さんを保健室まで連れていきます」  少し強引な気もしたが、誰も不審には思わなかったようだ。  でも確かに、確かに塩野さんだけは目を丸くして僕を見つめていた。  ***    とても元気な私は今、1階の保健室のベッドの上に居た。  内田君に連れてきてもらう途中、お手洗いに行きたいと言って、こっそりチョコは回収した。そのとき内田君は何も言わず、さっさと先に保健室に向かってくれた。  やっぱり今回の作戦は、そもそも失敗していた。よく確認したはず、だったのに。  今日の私は運がいいのか悪いのかよく分からない。でも結局、作戦がみんなにばれるという最悪の事態を回避できたわけだから、きっと運が良かったということになるのだろう。  それにしても一体全体どうなっているのだろうか。  内田君はなんで私を助けてくれたのだろう。焦っている私が、本当に体調不良に見えた、それとももう全部ばれているってことなのか。  もう私はさっきよりも頭が混乱していた。  ベットの上で混乱したまま天井を見つめていると、内田君が戻ってきた。 「ごめんね塩野さん。なんか今、保健の先生が、他の生徒の付き添いで病院に行っちゃってるみたいで……。落ち着いてきた?」  内田君は本当に心配したような口ぶりで私にそう言う。ということは、やっぱり単純に私の体調を心配して、保健室に連れてきてくれたのか。でもそれならあの大根芝居は何なのか。  こういう時は考えていても仕方がないのだ。 「あのさ……内田君。もしかして全部ばれてる?」 「えっ!? ばれてる? 何っ、が?」  明らかに内田君は挙動不審だった。 「もうばれてる?」  ここまで言えば、きっと優しい内田君は本当のことを話してくれるはずだと、私は意地悪く同じ質問を繰り返した。  ふと内田君は真剣なまなざしを私に向ける。 「いやっ、僕は本当に何も知らない……」  内田君はさっきまでとは違ってはっきりとそう言った。 「内田君が私を助けてくれた、ってことじゃないの?」  私もまっすぐと内田君を見つめ返す。 「僕は……何もしてないよ」 「そっ、か」  これ以上質問することを止めた私は、今度は内田君に提案をした。 「今日一緒に帰りませんか? 委員会終わるの待ってるから」 「……えっ??」  内田君は、今日一番のへんてこな顔になっていた。  とにかく、私のことを必死に助けてくれた内田君には、今日一緒に帰ってもらわなければ困る。私の話、いや、説明を聞いてもらわないと困るのだ。  だって内田君はきっと今も勘違いをしている。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!