すきやきす

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 高校の卒業式。  この日が終われば、毎日顔を合わせていたクラスメートとはもう頻繁に会えない。気になっていた女子、成川香里奈(なりかわかりな)さんとも。  きっと、告白は成功しないだろう。わかっていても、望みは捨てきれない。 「話ってなに?」  成川さんは来てくれた。春風に軽やかにウルフヘアをなびかせて。  呼び出したのは高校近くの公園。咲きだした桜はやわらかな陽に照らされそよぎ、雰囲気はいいだろう。その上、そこで待つのはイケメンだ。  でも、それでも、ダメなのだろう。結果はわかっている。それでも。格好つけて、センターパーツの前髪をさらりとかきあげてみせる。成功させるためには、なんだってやってみるしかない。悪あがきかもしれないけど。 「ずっと思っていた。俺は成川さんのことがす……す……」  続きを言えればどんなにいいだろうか。けれども、口が震える。 「す……す……」 「なに? 早くしてよ。友だちとごはん行くんだけど」  成川さんは完全に迷惑そうな顔をしている。「ただしイケメンに限る」なんて言葉があるけど、残念ながら俺のイケメンは通用しないようだ。しかたない、思いきって伝えよう。 「す……すっぱいすぱい」  あーあ。やっちまったよぉ。成川さん、は? って顔してるじゃん。 「ごめん!」  俺は謝って、逃げ出した。これ以上、なにを言えばいいのか、わからない。  恥ずかしいこの記憶を消すように、手を足を力の限り動かしまくり、走る。けれども、それよりも昔の記憶がよみがえってくる。
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