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春期講習初日。僕は数学の授業を受けていた。だが説明の内容が分からない。
「じゃあこの問題を…時谷君!」
「はい!えーっと…」
僕は立ちあがった。僕は本当は優秀なんだ。だから行けると疑っていなかった。だがその後に頭の回転が止まってしまった。
(あれ?前に習ったはずなのに…ていうか、以前受験生だった頃にはスラスラ解けたはずなのに、解けない…)
僕は焦った。先生の視線。友達の視線。額に伝う汗。激しくなる鼓動。中学卒業後は何度もこのような緊張を味わったが、これほどの緊張感を塾で味わったのは初めてだった。
「すみません…分からないです…」
僕は顔を下向け、口を開いた。
「先月やったんだけどな…田中!」
先生はため息をつきながら、田中を指名した。田中はすぐさま起立する。
「はい、23xです」
田中は自信満々に答えた。正直なところ、スポーツでは敵わなかったものの、彼に勉強で負けたことは一度もない。そのため、自分が解法を度忘れしてしまった問題を、いとも簡単に彼が解いていたことに悔しさを感じた。
「ちゃんと復習しとけよ?じゃあ次の問題だ…」
熱血で優しかった先生だったが、最近勉強で行き詰まりがちな僕に対し、どこか冷たくなっているような気がした。
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