第1章 強くてニューゲーム?

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春休みが終わり、中3となった。田中とは別のクラスとなったが、教室は隣であるため、変わらず交流は続いていた。 ゴールデンウィーク直前のことである。進級した後の様子を見ることに加え、春休みの終わりに受けた模試の結果を返すのも兼ねて、先生と面談が行われた。 「偏差値59か…。悪くはないが、このままだと、桜崎第一は厳しいぞ。特待で入ったっていうのに、どうしたっていうんだ」 僕は何も言えなかった。決して悪い数字ではない。だがかつての自分はそんな数字を決して取らなかったはずだ。そんな自分がどうして、と思った。 「あそこが独自の問題を採用していることは知ってるよな?」 「は、はい。普通の公立よりも難しい問題が出題されるんですよね?」 「そうだ。一般的な公立の問題よりも難易度が高い。だから当塾では対策に向けた特別コースが用意されている」 難関高校の場合、他の一般的な高校と同じ問題を出すと、優秀な受験生間で差がつかない。そのため、他の高校とは別にオリジナルの問題を導入することがある。ほとんどの場合、一般的な公立入試の問題より難しく、基礎的な学力を身につけたうえで、応用力を磨いていくことが不可欠となる。 桜崎第一高校も例外ではなかった。かつて高校受験に挑んだ時も過去問演習を行ったが、全教科において一般的な公立入試より明らかに難しかった。苦手だった理科はもちろん、得意の社会や数学も難しいと感じた。 「その選抜基準は、夏休み前の模試で、最低でも偏差値65を取ることだ。今のお前はそこに届いていない。かつてはいい成績だったが、そんなことは関係ない。これはうちのルールだからな」 先生はいつも以上に険しい口調で言った。 結果を残すべき時に残せない受験生は、どのみち受からない。 暗にそんなメッセージが先生、あるいは塾から込められていると感じたのは、気のせいだろうか。
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