第2章 葛藤

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夏休みが明けてしばらくしてからのことである。まだ暑さが続いている中、夏風邪を引いてしまった。受験期の前でなかったことが不幸中の幸いだった。 僕は学校を休んで病院に向かった。案の定単なる風邪だと医師に言われ、薬を処方された。 その帰り道のことである。鈴木先輩が母親と一緒に歩いているのを見かけた。鈴木先輩とは以前のサッカー部の部長だ。現在は高2、すなわち僕が入学した当時は既に最高学年の中3だったが、サッカーの技術、人柄共に優れていた。皆の憧れの先輩であり、桜崎第一高校を志望したきっかけも彼である。だが以前とは別人のように、どこか憔悴しきった様子だ。 本来なら今日は平日のはずだが、どうしたのだろうと見ていると、彼らはある建物に入っていった。 「え?」 その建物を見て、僕は驚いた。そこは不登校の生徒に向けて学習指導を行っていることで有名な塾だった。過去に戻る前に通っていた高校の同級生にも、不登校になってここに通い、猛勉強の末に国立大に合格した人がいたため、名前だけ知っていた。状況から考えれば、彼は十中八九不登校だ。だが僕には信じられなかった。 (そんな…あの先輩が…?) 僕はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
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