プロローグ

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プロローグ

「はあ…」 夜の住宅街を、僕はただ1人、ため息をつきながら歩いていた。 僕の名前は時谷渡(ときたにわたる)。今年で30歳を迎える、しがないサラリーマンだ。新卒で今の会社に入って以来、ずっと働き続けているものの、お世辞にも活躍できているとはいいがたい。一応営業職として働いているが、まともに契約を取れたことはほとんどない。後輩社員の方が優秀であるため、部署内での居心地もあまり良いものとは言えず、いわゆる”窓際社員”として生活しているが、そんなことはどうでもよかった。自分に向いていないことは自覚しているが、他に行く当てもない。 一方で、心の底から満足していたわけでもなかった。これでも中学の頃までは順風満帆な生活を送っていたからだ。どうしてこんな人生になってしまったのだろうか。原因は明白である。入る高校を間違えたことだ。そのせいで不本意な人生を送り続け、今に至る。あの時に戻ってやり直したいという叶わぬ思いを胸に抱きながら、ずっと生きているというわけだ。 信号が青になる。晩御飯としてコンビニで買った総菜を入れた袋を片手に持ち、横断歩道を渡ろうとしていたその時だった。
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