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その質問を聞いた瞬間、驚きの表情でこちらを振りかえり、俺から距離をおくように半円状に人混みが離れ、ざわめきだした。昇降口の入口付近に立っていたショートカットにセーラー服の女子も振り返り、目を見開きながら信じられないものでも見るかのように口もとを両手で覆い、俺をみている。
「嘘!? この騒ぎの原因、知らない人がいたなんて……! むしろなんで知らなくてこの学校、受験しにきたの?!」
「俺の受験はみぽりんのために! それよりこの騒ぎ、そんな有名なことなのか!?」
昇降口の中で何が起こっているのか、すんごい気になる……!
俺は好奇心を悟られないように、驚きでずれた瓶底眼鏡の位置を中指で直した。
「有名って、当たり前だよ! 雑誌のインタビューにも載ってたのに!」
「雑誌のインタビュー!? 学校の記事が!?」
「違うよ、佐藤くんと塩田くんのインタビュー記事だよ!」
「誰だぁ、佐藤と塩田ァ!!」
思わず明後日の方角に吠えてしまう。
「嘘、本当に知らないんだ……! 君、情報に疎すぎない!? 今時珍しすぎる瓶底眼鏡に七三分けだし!」
「おっと、このスタイルには文句は言わせないぜ!? みぽりんの好みのタイプが優しくて誠実な人だからな! まずは見た目で誠実さをアピールしてみたまでだ!!」
ショートカットの女子を指差しながら畳み掛けるようにそう言うと、ムッとした表情になり、言い返された。
「さっきからみぽりん、みぽりんって言うけどさー、おばさんじゃん! それよりも佐藤くんと塩田くんだよ!」
「だーかーらー誰だぁー!? 佐藤と塩田ってーのは、誰だぁ!?
しかも、俺の愛しのみぽりんをおばさん扱いするとは何事だ、小娘!!」
「小娘って、私たち同じ歳じゃん!」
「いいわけは聞かん! いいからこい、全力で相手してやる!!」
俺は手のひらを上にし、クイクイっとこっちへくるように挑発的な手招きをした。
一瞬、ざわめきがやむ。周囲に緊張が走るなか、睨み合う俺とショートカットの女子。みぽりんのための聖戦が、今まさに始まろうとしたその瞬間!
意外なところから水を差された。
昇降口の中で、大きなざわめきが起こったのだ。何事かと目をやると、ミステリーサークルよろしく、ひとりの男子を中心にサークル状に人が何人も倒れているのが確認できた。ざっとみただけでも30人はいるだろうその人数に驚いていると、まわりにいた肉壁たちも同じ気持ちだったのか、ざわざわと遠巻きにみているだけで、誰も中心にいる明るい髪色の男子に手を貸さないでいる。あまつさえ、倒れている生徒の看病をしようと孤軍奮闘している明るい髪色の男子にスマホを向けて、動画を撮り始めたではないか!
「お、おい! いくらなんでも不謹慎が過ぎるぞ!」
周りを見渡し、注意する俺、常識人。
流石、将来みぽりんの夫になる男!!
中身も文句無しにイケメンだ!
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