未知との遭遇

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しかし周囲の野次馬どもは、俺の声を無視して動画撮影に夢中になっている。 「もう肉眼では拝めないかと思って諦めてたけど、来て良かった!! やっぱ(なま)で見る塩田くんって最高! マジ王子様なんだけど!」 先ほどまで対峙していたショートカットの女子が興奮気味にそう言い、隣にいた友達らしきボブヘアの女子に話しかけている。俺に背を向け、俺を無視して、夢中になってスマホのカメラを塩田くんに向けているショートカットの女子に、俺はゲンナリした。 どうやら騒ぎの中心にいる明るい髪色の男子が、さっきからごちゃごちゃ言われていた塩田くんという人らしい。 稲穂のように明るい金髪に、アイスグレーの瞳、鼻筋が通っていて、くっきりとした二重の瞳に長い睫が印象的な男だった。まるで絵本の中から出てきた王子様のような外見をしている。どこか儚げで、繊細な美しさが塩田くんにはあった。 そんな塩田くんを、我先にとスマホで撮影し出す野次馬たち。 くそう、雑誌のインタビューがなんだ! みぽりんは毎日お天気お姉さんとしてお茶の間のテレビに出てるんだぞ!? そんなことを思っていると、後ろから声がした。 「おー! なんの騒ぎだ?」 振り返るとそこには! 王様(キング)がいた。 圧倒的な存在感と華やかさ、自信をもっているであろう男が、そこに立っていた。 艶やかな黒髪は短くカットされていて、男らしさと清潔感が漂い、ほのかにオスくさい色気を放っている。切れ長で奥二重な瞳とキリリとした眉が印象的な男子だ。目があったら最後、ドキンと高鳴る胸の鼓動には逆らえず、俺は一瞬にしてオスとして敗北し、静かに流れるように道をあけた。 それに続くようにして、みな道をあけていき、人で出来た花道が自然と出来上がっていく。王様(キング)はその真ん中を当たり前のように堂々と歩き、昇降口の中へと入っていった。最前列を歩くその王様(キング)の後ろには、どぅるん!と一列、長い列が出来ていて、王様(キング)の後に続いて昇降口の中へと入っていく。 あっという間に、満員電車さながらの人口密度に戻る、昇降口の中。 スマホを握りしめ、うっとりとした表情でそれを見送る野次馬、もとい花道たち。 「やっぱり(なま)で見る佐藤くんは違うわ。色気ヤバイ! 鼻血出そう!」 先ほど口論に発展しそうになったショートカットの女子が、隣にいるボブヘアの女子に興奮気味に話すのが聞こえた。 どうやらさっきの男子が、噂の佐藤くんらしい。
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