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もう一つの出会い
紗季が今日、彼氏を連れて来る。
先週、母さんに言われて…朝から落ち着かない。
確かにもういい年頃だから彼氏がいてもおかしくはない。しかし…
彼氏を連れて来る…つまり、結婚を考えてくれてる相手か?どんなやつなのか…
まぁ、紗季のことだ、変な男ではないと、思いたい。
はぁ…そのうち弦(弟)も嫁を連れて来る日がくるのか…。
いつの間に二人共大きくなってしまったのかなぁ…。
いかん、いかん。悪いやつを連れてくるとは限らん。前向きに考えよう。
落ち着くため、作業場で頼まれた仕事を始める。
長年勤めたレンズメーカーを早期退職して、自宅に作業場を構え、おもちゃの修理から昭和のラジカセ、オーディオ、望遠鏡まで…自分の技術が活かせる修理をやっている。
『物』は『人』
その物にその人の思い出が沢山詰まっていると俺は感じ、修理屋を始めたのだった。
《ガラッ》扉を開け
「お父さん?」
紗季が作業場へ入ってきた。
「お、おう、帰ってきたか。」
「また、何か作ってるの?」
「いや、頼まれた修理だ。」
振り向かず、黙々と作業する。
「お父さん、なかなか家に来ないからこっちに来たよ。彼を紹介するよ、こちら…」
やっと紗季の方へ顔を向けそこで見た彼の顔は…
30年ほどの時が戻った感覚を覚えた。
手が震える…会いたくても中々会えず、『便りのないのは元気な証拠』と勝手に思い、いつしか手紙すら出さなくなっていた。その相手が目の前にいる!
「え?真和さん?!」
『まさかな、そんな訳ないよな…。』
心の中で呟いた。
そんな訳がない、彼は恐らくもう60歳代。
でも真和さんによく似た青年が驚いた顔をしている。
「父を…ご存知ですか?」
「え?武田 真和さん?」
「ええ、父の名は『武田 真和』です。」
笑顔で真和さんに似た青年が答えた。
「息子さんなのか?!」
胸が躍る。何ということだ、青春を共にした彼の息子と会えるとは!
紗季が驚いた顔をしている。
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