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〜武田の視点〜
11階の会議室へ向かい、佐伯部長と北川課長の後に続き中へ入る。
中央に3人揃って立つ。
フロアを見渡したら…
「カンパネルラ!」
驚いた。思わず叫びそうになった。
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昨年、膵臓癌で他界した父。癌が見つかった時は既にステージ4になっていた。余命宣告を受け、それまで別で暮らしていた姉夫婦が実家同居し、父の介護をしていてくれた。
姉夫婦には一人娘の実咲(みさき)がいる。
俺の母は実咲が産まれて間もなく白血病で呆気なく他界。亡くなって今年で6年になる。
この6年の間で両親を相次いで亡くした。
2つ年上の姉とは仲が良いと思う。義理兄も長年の付き合いなので、本当の兄弟かと、周りに言われるほど家族は仲が良い。
『ダブルケア』を姉に強いるのは申し訳なく、休みにはよく実咲を連れて出かけていた。
ある日、実咲が幼稚園から手紙を持ってきて劇団ミュージカルのチラシを見せ、連れて行ってくれとせがむので、二人で観に行った。
演目は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」
有名な劇団だが、今まで全く興味がなかったのでどんなものだろうと思って観たら…
正直ハマってしまった。
演出も素晴らしかったか、カンパネルラ役の女優の演技に魅了されてしまった。
実咲はというと、初めはワクワクしていたが、薄暗い照明になった途端すやすやと寝息を立てた。
「テーマパークがよかったか?」
と終わって聞いたら
「実咲にはこれはまだ早かったみたい。」
と照れ笑いされた。
この公演が続く間、一人で5回も観に行ってしまったほどだった。
また、この女優はこの公演が当たり、今では色々な舞台に出演しているが、俺としては『銀河鉄道の夜』が一番好きだった。
その、カンパネルラにそっくりな子がフロアにいる。興奮気味になるが、一呼吸して冷静になる。
が、目が合うと、かなり驚いた顔をしてすぐに目をそらされた。
そして隣に座る子とヒソヒソと何やら話している。
その様子をチラチラ見ていると、ジョバンニとカンパネルラの様に思えて微笑ましくなった。
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