花が降る最後の夜に、もう会えなくなる君と

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 こぼされた事実に、幸雄はやはりそうかとうなずいた。  赤外線認識能力をあげる手術は、文字通り暗い中でも目が見えるようにする手術だ。したがって、医師が手を加えるのは眼球と視神経。健康を維持していないと成功率は一気に下がる。  最悪、手術の後遺症で失明する可能性もあると聞いたことがあった。 「だから、手術はできないってことになったんだ」 「そう。でもおばあちゃんを1人で遠くへ追い出すわけにもいかない。おばあちゃんだけじゃ移転の手続きも手配も難しいから」 「なるほど。今、咲化のために引っ越したいって人が役所に殺到して窓口がめっちゃ混んでるっていうもんね。あれ、オンラインでの予約必須になったんだっけ」 「よく知ってるね。おかげで転居したい高齢者が困ってるんだってさ。お年寄りほど、手術適性ない人多いのに」  世間話ではない。強いて言うならば愚痴だ。咲化の影響で増加した理不尽な別れと環境の変化への不満が、止まらない。   「・・・・・・なんか、話それちゃったね」  しばらく言い合ってから、互いに黙り込む。口火をきったのは香苗だった。軌道修正を成功させようと、続いて幸雄も口を開く。 「そうだね。せっかくだから思い出話とかでもしようと思ってたのに。中学の頃とか」 「そこから?古いね」 「そういうものだろ、思い出なんて。古びた過去の記憶から埃をはらって懐古にひたるのも、なかなか良いと思うよ」 「うわー、かっこつけてる!もしかして未だに厨二病患者なの?私に告ったときもそうだけど、幸雄ってたまに変なこと言うよね」 「え?いや、別にあのときは何も」 「嘘だぁ、私忘れないよ。去年の幸雄の、ダサすぎる告白。変な比喩とかいっぱい使って無駄に長かったし。しかもめっちゃ噛んでた」 「そうだっけ。緊張しすぎて覚えてない。というか、そのわりにはあっさりとOKしてくれたじゃないか」 「ん、まあね。あそこまで頑張ってたら、気持ちに応えてあげたくなっちゃうじゃん。可愛かったよ」 「いやいやいや、何言ってんだよ!」  香苗の唐突な褒め言葉に、思わず幸雄はたじろいだ。その反応が楽しいのか、香苗が薄く笑う。  じじ、と揺れる街灯の下でささやいた言葉を、聞き取った。 「幸雄は分かりやすいからね。告白してくることは予想できてたし、その後のシュレーションもしてたけど、あまりにも固まってたもんだから未遂に終わっちゃった」
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