五月十六日 水曜日

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─14─ 「わかるのか?」 「その紙袋の中身、なんだ?」  洸平は神主の息子で、将来、継ぐ予定だ。  長髪、ワイルドな見た目、そして、無駄にセクシーな低い声。  ここら辺ではかなり有名な奴だ。学生の頃はモテすぎてファンクラブがあった程。楽観的で誰とでも仲良くなれる。コミュニケーションに長けているせいか、こいつがこの神社に顔を出すようなってから、参拝にくる女性客が増えたと噂だ。 「これなんだが……」  木箱から面を取り出し、洸平に見せた。 「お前こんなもん、どうしたんだよ」と、手に取ろうとした。 「触るな!」  思わず声が大きくなる。 「すまん、それは触らない方がいい」 「どういうことだ?」 「触ると……呪われるんだ」 「いやいや、お前触ってるだろ」 「俺は大丈夫なんだ……」 「──俺は?」 「楓太が触った……」  洸平は大きなため息と同時に、俺に近寄る。 「お前、なんでそんな危ないもん、楓太に触らせたんだよ!」 「──すまん」  洸平が怒るのも当然だ。 「とりあえず、詳しく説明しろ」  俺の知りうる全ての情報を、洸平に説明した。共通の友人である湊の死因が、この面であることも。 「力を貸してほしい」 「凛太が俺に頼み事するなんて余程のことだな。楓太は俺にとっても弟のようなもんだ。出来ることはなんでもするよ」 「ありがとう……」  洸平と楓太は、本当の兄弟のように仲がよく、二人で飲んだりする程だ。俺には言いにくいことも洸平には話せるようで、楓太はよく懐いている。 「まずその面だが、相当やばいぞ。俺は幽霊が見えたりはしないが、声が聞こえるんだ」 「この面からも聞こえるのか?」 「──ああ。わかりやすく言うと、地鳴りのような低い声。この声からは執念を感じる」 「執念……」 「絶対に許さないという、執念だと思う」  その強い執念が、何人もの命を奪うことに繋がっているのか。 「あと、その集落、マニアの中では有名で、わかってるやつなら絶対に行かないような場所だ。俺も行ったことがあるが、集落の前で引き返したよ。それでも数日は体調壊してえらい目にあった」 「そんなに? 俺は大丈夫なんだが……」 「それだよな、不思議なのは。面を触ったというのに何も起こらないし、体調にも変化がない。もしかして、凛太は強い守護霊に守られていたりしてな」 「守護霊ね……」 「とりあえず、すぐ調べてみるから。わかったら連絡する」 「すまんな。でも、時間があまりないんだ、急いでほしい」 「──わかってる。今日中に連絡する」  洸平に話したことで、少し心に余裕ができた。  俺一人では、限界だった。何かを調べるにしても、ネットに転がっている情報を見ていくしかない。実際、何をどう調べればいいのかさえわからないのだ。それに比べて、洸平は知識が豊富だ。昔から、この手の話に詳しく、俺には理解できないような、活動もしている。変わり者だと思っていたが、何かに特化していることは、強い。  それに比べ俺には、強みがない。高校の頃に、親父が亡くなってからは進学を諦め、地元のホテルに就職した。母と楓太を守るため、今まで家族を一番に考えてきたのだ。  なぜなら……。 「二人を頼む」  これが親父の遺言だった。  それ以来、親父の代わりになろうと、自分なりに頑張ってきたつもりだ。それが、こんなことになるなんて。きっと、天国で親父は呆れているだろう。  神社の帰り、買い物をして帰ろうとスーパーへ向かっていた。すると、ポケットに入っていたスマートフォンが鳴った。楓太に何かあったのかと慌てて車を路肩に止める。  画面を見ると、職場の上司からだった。  嫌な予感は的中した。宴会があるというのに、スタッフの一人が休んだらしい。それで、俺に出てほしいとのことだった。もちろんこんな状況だし、休暇中とのことで一度は断ったが、結局押し切られ、これから出勤することになってしまった。昼十二時からのの宴会で、急がなければならない。さっと買い物を済ませ、ご飯を作ってからホテルに向かうとしよう。      
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