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─14─
「わかるのか?」
「その紙袋の中身、なんだ?」
洸平は神主の息子で、将来、継ぐ予定だ。
長髪、ワイルドな見た目、そして、無駄にセクシーな低い声。
ここら辺ではかなり有名な奴だ。学生の頃はモテすぎてファンクラブがあった程。楽観的で誰とでも仲良くなれる。コミュニケーションに長けているせいか、こいつがこの神社に顔を出すようなってから、参拝にくる女性客が増えたと噂だ。
「これなんだが……」
木箱から面を取り出し、洸平に見せた。
「お前こんなもん、どうしたんだよ」と、手に取ろうとした。
「触るな!」
思わず声が大きくなる。
「すまん、それは触らない方がいい」
「どういうことだ?」
「触ると……呪われるんだ」
「いやいや、お前触ってるだろ」
「俺は大丈夫なんだ……」
「──俺は?」
「楓太が触った……」
洸平は大きなため息と同時に、俺に近寄る。
「お前、なんでそんな危ないもん、楓太に触らせたんだよ!」
「──すまん」
洸平が怒るのも当然だ。
「とりあえず、詳しく説明しろ」
俺の知りうる全ての情報を、洸平に説明した。共通の友人である湊の死因が、この面であることも。
「力を貸してほしい」
「凛太が俺に頼み事するなんて余程のことだな。楓太は俺にとっても弟のようなもんだ。出来ることはなんでもするよ」
「ありがとう……」
洸平と楓太は、本当の兄弟のように仲がよく、二人で飲んだりする程だ。俺には言いにくいことも洸平には話せるようで、楓太はよく懐いている。
「まずその面だが、相当やばいぞ。俺は幽霊が見えたりはしないが、声が聞こえるんだ」
「この面からも聞こえるのか?」
「──ああ。わかりやすく言うと、地鳴りのような低い声。この声からは執念を感じる」
「執念……」
「絶対に許さないという、執念だと思う」
その強い執念が、何人もの命を奪うことに繋がっているのか。
「あと、その集落、マニアの中では有名で、わかってるやつなら絶対に行かないような場所だ。俺も行ったことがあるが、集落の前で引き返したよ。それでも数日は体調壊してえらい目にあった」
「そんなに? 俺は大丈夫なんだが……」
「それだよな、不思議なのは。面を触ったというのに何も起こらないし、体調にも変化がない。もしかして、凛太は強い守護霊に守られていたりしてな」
「守護霊ね……」
「とりあえず、すぐ調べてみるから。わかったら連絡する」
「すまんな。でも、時間があまりないんだ、急いでほしい」
「──わかってる。今日中に連絡する」
洸平に話したことで、少し心に余裕ができた。
俺一人では、限界だった。何かを調べるにしても、ネットに転がっている情報を見ていくしかない。実際、何をどう調べればいいのかさえわからないのだ。それに比べて、洸平は知識が豊富だ。昔から、この手の話に詳しく、俺には理解できないような、活動もしている。変わり者だと思っていたが、何かに特化していることは、強い。
それに比べ俺には、強みがない。高校の頃に、親父が亡くなってからは進学を諦め、地元のホテルに就職した。母と楓太を守るため、今まで家族を一番に考えてきたのだ。
なぜなら……。
「二人を頼む」
これが親父の遺言だった。
それ以来、親父の代わりになろうと、自分なりに頑張ってきたつもりだ。それが、こんなことになるなんて。きっと、天国で親父は呆れているだろう。
神社の帰り、買い物をして帰ろうとスーパーへ向かっていた。すると、ポケットに入っていたスマートフォンが鳴った。楓太に何かあったのかと慌てて車を路肩に止める。
画面を見ると、職場の上司からだった。
嫌な予感は的中した。宴会があるというのに、スタッフの一人が休んだらしい。それで、俺に出てほしいとのことだった。もちろんこんな状況だし、休暇中とのことで一度は断ったが、結局押し切られ、これから出勤することになってしまった。昼十二時からのの宴会で、急がなければならない。さっと買い物を済ませ、ご飯を作ってからホテルに向かうとしよう。
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