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─15─
家に帰ると、楓太は変わらずベッドで横になっていた。
「楓太、大丈夫か?」
「──兄ちゃん、お腹すいた」
この状態になってから食欲が増しているようだった。食べても食べても腹が減るらしく、常にグーグーと腹が鳴っている。これも何か、呪いと関係がありそうだ。
急いでご飯を作り、楓太に食べさせる。こんな細い体のどこに入るのか不思議なほどの量を食べる。
これだけでは足りないので、仕事へ行っている間にも食べられるよう、サンドイッチを作り、ベッドの近くに置いておく。
「楓太、少しだけ仕事行ってくるから。なるべくすぐに帰ってくるから、何かあったら連絡しろよ」
「早く帰ってきてね……」
後ろ髪を引かれる思いで、家を出た。これからどんな変化が訪れるのかわからない状態で、一人でいるのは心細いのだろう。上司に話し、ピークが過ぎたらすぐに帰れるようにしてもらおう。
職場に着くと、同僚たちが休暇中の俺に憐れみの視線を送ってきた。その一人が近寄ってきて「お疲れ様です。休んだの、アイツです」とだけ言い残し、宴会場へ入っていった。
またアイツか……。
アイツは、俺のことが嫌いなのだ。俺が今回のように長い休暇になると、このような日に突然休み、俺が呼び出されるようにする。
発端は、アイツが入社した時、教育係として、半年間面倒を見たことだ。その時に厳しくしていたのを根に持っているらしい。ではなく、持っているのだ。
他のスタッフに俺の悪口を言いふらしているようで、見かねた上司が何度か注意した。
腹ただしいが、仲良くするために仕事をしているわけではないので、特に気にしてはいない。こういうやつは、俺の経験上、そう長くはない。近いうちに辞めるとふんでいる。
昼十二時開始の宴会。
今日の客は、この地域一帯の消防団だ。OBも来るらしく、四十人を越える大きな宴会。
バスが到着するとインカムで伝えられ、主任の俺がお迎えに行く。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
頭を何度も下げながら、俺はこんな所でこんなことをしている場合じゃないんだと、心の中でぼやく。
案内を済ませ、幹事との打ち合わせ通り、長い挨拶の間に飲み物を配り、乾杯まで見守る。
各テーブルに並べた瓶ビールがぬるくなった頃、ようやく宴会が始まり、料理を次々に運んでいく。今回は大皿料理の宴会で、様子を見ながら厨房へ伝え、料理を提供していく。
宴会の日は、この作業が一番骨が折れる。客と料理人に挟まれるこの役は誰もやりたがらない。料理人からは文句を言われ、客からはまだなのかと文句を言われ、非常にストレスが溜まる。料理人とは幾度となくやりあっているが、結局折れるのはこちら側。
落ち着いた所で、俺も会場に瓶ビールを抱え見回りに行く。足りていない所を見つけてはどんどん置いていく。すると、一際賑やかなテーブルの客が、手招きをしていることに気が付き急いで向かう。
「お待たせしました」
「兄ちゃん、ここに熱燗五本持ってきてくれるか?」
六十代後半くらいの男性が、顔を赤くして俺の肩を叩いた。
「かしこまりました」
すぐにインカムで、ドリンク係にオーダーする。作ってもらっている間に、空になった瓶や、皿を片付ける。
「それにしても、俺が消防団やってて一番怖かったのはあの事件や」
「またその話ですか?」
「あんな不思議なこと、忘れられないやろ」
「まあ、トラウマですよね」
武勇伝だろうか。この若者はいつも聞かされているのだろう。
「兄ちゃんは知っとるか?」
急に俺に話を振ってきた。
「どんなお話ですか?」
「今は無くなった集落の話」
集落……。
鼓動がドクンと跳ねる。
「集落ですか?」
「そうそう。この近くに、昔は集落があったんだよ。武咲集落ってとこ」
空瓶を持つ手が震える。
「聞いたことないです。怖い話ですか?」
「怖いというか、不思議な話だな」
「僕、不思議な話大好きなんで教えてくださいよ!」
「おっ! それならこの話は最高だな」
「ちょっと佐竹さん、だめですよその話は」
「いい、いい。もう時効だろ。四十五年も前の話やぞ」
「そうですけど、それは口外しないって……」
若者が小さな声で、佐竹という男性に言った。
口外してはいけない……。そんな大きな事件だったのか?
「教えていたいただけますか?」
こういう人は、話したがり。お願いすると喜んで話すはず。
「おうおう! しゃーないな。兄ちゃんがそんなに聞きたいんだったら」
当時のことを知る人物に出会え、俺は興奮していた。もしかすると、重要な話が聞けるかもしれない。
喉から手が出るほど、情報が欲しいのだ。媚びてでも全て聞き出してやる。
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