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「あ、あれ……」
動かなくなった湊の顔には、あの木彫りの面がついていた。薄気味悪く微笑んでいる。
「湊……、湊……」
腰が抜けたように動けない俺は、這うように湊の元へと近づく。
体を揺らし声を掛けるも、反応はない。
「湊……、こんな薄気味悪い面、取ってやるからな」
顔についている面に手をかけ、ゆっくり剥がそうと引っ張った。
すると、ぐしゃりと嫌な音と同時に、不快な感触が手に伝わった。まるで、この薄気味悪い面が、顔の一部になってしまったかのように、剥がすことができないのだ。
「酷すぎる……」
湊の鼓動は完全に止まっていた。
今、目の前で起きた一連の出来事を、一言で説明することなど到底不可能だ。誰に話したところで信じてもらえるはずがない。
「楓太。湊が死ぬ時、何が起こっていたのか説明してくれるか?」
青い顔をし立ち尽くす楓太は、かろうじて俺の言葉を理解したようで、小さな声で話し始めた。
「突然、さっき俺が見た三人家族が面を持って現れたんだ。少しずつ近づいて、その面を湊くんの顔に押し付けたんだ。そしたら、湊くんが……」
湊が何かを拒絶しているように見えたのは、面を無理やり押し付けられていたからだったのか。そして、下を向きもがき苦しんだ後、仰向けに倒れた。ここで初めて俺は、湊の顔に面がついているとわかったんだ。
俺には見えず、何故か、楓太には見えた……。
「まずい!」
こんなことを考えるなんて、俺はどうかしているかもしれない。でも、目の前で起きたことを考えると、これしかない。
「兄ちゃん、どうしたの?」
「よくわからないが、これはなんらかの呪いだ。湊がどうやって面を入手したのか、何か手がかりになるものはないか、楓太も探してくれ!」
「呪い!?」
「いいから探せ!」
俺の気迫に楓太は呆気に取られているようだったが、意図を汲んでくれたのかすぐに辺りを探し出した。
「兄ちゃん!」
楓太がゴミ箱から何かを取り出した。
「これじゃない?」
押しつぶされた段ボールだった。送り状もついている。
「送り主が書いてあるな。個人名と……、いいもの市場?」
「これって、フリマのサイトだよ。俺は利用したことないけど広告で見たことある」
「ということは、サイトの名前と面の持ち主の名前か……。よし、帰るぞ」
その後、警察に連絡し、事情聴取を受けたが、遊びに来たら既にこの状態だったと説明した。この目で見たことを一部始終話したところで信じてもらえず、変に疑われても面倒だ。
俺の考えていることが正しければ、この面が、何らかの引き金になっているはず。
不安と恐怖の入り混じった渦が、俺たちを吞み込もうとしていた──
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