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─7─
「兄ちゃん、起きてたの?」
ほどなくして、楓太がベッドの上から話しかけてきた。
「あんまり寝れなくてな。楓太はまだ寝てていいんだぞ」
スマートフォンで呪いの記事を見ながら楓太に言った。
「もう起きるよ。なんか、気になって寝れないしね」
「それもそうか。じゃ、コーヒー淹れるから待ってろ」
俺が立ち上がろうとした時、楓太がのそのそとベッドから起き上がり、背中を丸めながら俺の前を横切った。
「おい……」
すぐに楓太の異変に気がついた。
「なに?」
楓太は立ち止まりこちらを向く。その姿に言葉を失い、全身の血の気が引いていく。考えるより先に体は動いており、気がつくと楓太の肩を掴んでいた。
「楓太……お前……体どこか変じゃないか?」
「よくわかったね。なんか、すごくだるいんだよね」
俺は狼狽え、なんて声をかけるべきなのか、完全に自分を見失っていた。
楓太は昨日とは別人に痩せ細り、頬はこけ、顔色が青白い。
まるで、一夜のうちに生気を吸い取られたかのように。
「楓太、一緒に、鏡……見に行こうか」
口で説明するより、自分の目で見た方が理解は早いだろう。
不思議そうな顔をする楓太の肩を抱きながら、洗面台がある脱衣所へ向かった。
「──落ち着いて見るんだ。兄ちゃんが隣にいるから大丈夫だ」
「さっきから何言ってるの? 変だよ兄ちゃん……」
自分の姿を見た楓太は、一瞬、息遣いが変わったようにも感じられたが、声を発するわけでもなく、ただ、鏡の中の自分を見つめているだけだった。
その姿は、必死に現実を受け入れようと、理解しようとしているように見えた。
「兄ちゃん、これ……俺だよね?」
骨張った楓太の肩は小刻みに震えていた。
「大丈夫だ、大丈夫だ……大丈夫だ、大丈夫だ……」
俺は何かの呪文のように、同じことを繰り返していた。楓太への言葉なのか、自分への言葉なのかわからなくなり、もはや、なんの意味も持たない言葉になっていた。
「とりあえず、座ろう」
楓太を支えながらソファまで連れていき、座らせた。
「兄ちゃん、呪われなくてよかったね……」
その言葉は、俺の心臓を握りつぶしそうなほど、衝撃を与えた。
楓太は何も考えずその言葉を素直に発したのか、嫌味なのかはわからないが、心根が優しい楓太ならきっと、本当にそう思ったのだろう。
どうして俺じゃないんだ──。
どうしてあの時、俺が先に触らなかったんだ。そもそも、湊からの荷物の時点で、警戒するべきだろう。例のない事だったんだから。
後悔で頭がおかしくなりそうだ。
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