五月十五日 火曜日

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─7─ 「兄ちゃん、起きてたの?」  ほどなくして、楓太がベッドの上から話しかけてきた。 「あんまり寝れなくてな。楓太はまだ寝てていいんだぞ」    スマートフォンで呪いの記事を見ながら楓太に言った。 「もう起きるよ。なんか、気になって寝れないしね」 「それもそうか。じゃ、コーヒー淹れるから待ってろ」    俺が立ち上がろうとした時、楓太がのそのそとベッドから起き上がり、背中を丸めながら俺の前を横切った。 「おい……」  すぐに楓太の異変に気がついた。 「なに?」  楓太は立ち止まりこちらを向く。その姿に言葉を失い、全身の血の気が引いていく。考えるより先に体は動いており、気がつくと楓太の肩を掴んでいた。 「楓太……お前……体どこか変じゃないか?」 「よくわかったね。なんか、すごくだるいんだよね」    俺は狼狽え、なんて声をかけるべきなのか、完全に自分を見失っていた。  楓太は昨日とは別人に痩せ細り、頬はこけ、顔色が青白い。  まるで、一夜のうちに生気を吸い取られたかのように。 「楓太、一緒に、鏡……見に行こうか」  口で説明するより、自分の目で見た方が理解は早いだろう。  不思議そうな顔をする楓太の肩を抱きながら、洗面台がある脱衣所へ向かった。 「──落ち着いて見るんだ。兄ちゃんが隣にいるから大丈夫だ」 「さっきから何言ってるの? 変だよ兄ちゃん……」  自分の姿を見た楓太は、一瞬、息遣いが変わったようにも感じられたが、声を発するわけでもなく、ただ、鏡の中の自分を見つめているだけだった。  その姿は、必死に現実を受け入れようと、理解しようとしているように見えた。 「兄ちゃん、これ……俺だよね?」  骨張った楓太の肩は小刻みに震えていた。 「大丈夫だ、大丈夫だ……大丈夫だ、大丈夫だ……」  俺は何かの呪文のように、同じことを繰り返していた。楓太への言葉なのか、自分への言葉なのかわからなくなり、もはや、なんの意味も持たない言葉になっていた。 「とりあえず、座ろう」  楓太を支えながらソファまで連れていき、座らせた。 「兄ちゃん、呪われなくてよかったね……」  その言葉は、俺の心臓を握りつぶしそうなほど、衝撃を与えた。  楓太は何も考えずその言葉を素直に発したのか、嫌味なのかはわからないが、心根が優しい楓太ならきっと、本当にそう思ったのだろう。  どうして俺じゃないんだ──。  どうしてあの時、俺が先に触らなかったんだ。そもそも、湊からの荷物の時点で、警戒するべきだろう。例のない事だったんだから。  後悔で頭がおかしくなりそうだ。      
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