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始まり
─1─
「湊から荷物なんて……」
「どうしたの、兄ちゃん」
「湊から荷物届いたんだよ。この前会ったときは何も言ってなかったんだけどな」
「ねーねー、とりあえず見てみようよ」
二日前、二十一歳の誕生日を迎えた弟の楓太は、何がそんなに楽しいのかニヤニヤしながら俺を見ている。成人しているというのに、まだまだ幼い。
「楓太、そこの棚からカッター取ってくれ」
楓太からカッターを受け取り、ゆうパックの白い段ボールを開けていく。
「なんだこれ……」
中には古ぼけた木箱が入っていた。何も書かれていない木箱。開けた途端、木材の湿ったような臭いが、鼻に纏わりつく。
「なんか、高そうだね」
言われてみればそう見えなくもない。
段ボールと木箱のわずかな隙間に手を入れ、ゆっくりと箱を取り出す。
「兄ちゃんこれ……」
段ボールから木箱を取り出すと、その下に茶封筒が入っていた。手紙だろうか。
「もしかして手紙?」
「先に見てみるか」
茶封筒の中に入っていたのは、メモ帳のような紙切れ。二つに折られている。
──凛太、すまん
「どういうことだ、これ」
なんとなく胸の中をざわつかせたこの短い言葉。
よくわからないが、とにかく箱を開けてみる。蓋が歪んでいるのかスムーズには開かず、左右にガタガタと揺らしながら上に引っ張り上げる。
「えっ……」
「何これ……」
木箱の中には、『面』が入っていた。
「これさ、木彫りだよね。なんか……レトロだね」
本当は『古臭い』と言いたいのだろうが、楓太はレトロと言い換えた。
艶が無く、黒ずんだ木彫りの面。頬は大きく膨らんでおり、細い目でうっすら微笑んでいる『おかめの面』だ。
良い物のようだが、お世辞にも……。
「気味悪いな……」
思わず俺がそう漏らすと、「そんなことないじゃん」と、楓太はそっとその面を木箱から取り出した。
「えっ……」
面を持ったまま楓太は硬直し、一点を凝視している。
「ったく、どうしたんだよ」
今にも落としそうな楓太の手から面を取り返す。
「兄ちゃん……あれ……見えないの?」
楓太はまっすぐ先を指差しながら、顔は青ざめ、声を震わせている。
「おい、どうしたんだ……。何もないぞ」
「テレビの横に……いるじゃないか……こっちを……見てるじゃないか……」
「な、何を言ってるんだよ! おい、大丈夫か!?」
楓太の目には、確実に何かが映っている。俺には見えていない何かが、楓太には見えているのだ。
その異常な怯え方に、俺の鼓動は徐々に早くなり、血の気が引き、冷たくなった手が震えている。こめかみを伝い、顎先から落ちそうになった汗を拭い、放心状態の楓太の肩を揺らす。
「大丈夫か!? 楓太! 楓太!」
やっとこちらを見た楓太は、唇を震わせながら小さく呟いた。
「誰かがこっちを見てた……」
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