きれいなまま

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 この季節は寒い。  地面が凍っていて、つい下を向いて歩いてしまう。  夜歩くと、街頭に照らされたなんの変哲もないただの木が、雪に彩られてきらきら輝いているように見えた。  咲は「きれい」とつぶやいた。  無意識にスマホを手に、その景色を”見せたい”と思ってしまった。  咲は画面越しに見るその景色を見たまま、先程までのふわっとした気持ちが一気に沈む。    雪がきらきら光る木を見つけたら、彼にも見せたいと思ってしまう。  彼の住んでいるところは、春が遅いから、桜が咲いたらもうすぐそっちにも春が来るよって教えたくなって、桜の写真を送って。  他愛もない話をして。  2人しかしないその空間で。  ただただ、ずっと話していたかった。  また連絡をすれば、きっと彼は普通にまた他愛もない話をしてくれる。  だけど、それはきっと咲の気持ちとは別のものだって、わかっているから。  会ったことがない彼は、どんな声をして、どんな表情で笑うのだろう。  会いたいって、言ったら、きっと離れてしまう。  少しでも長く彼と、繋がっていたかった。  これが恋だと言えば、会ったこともない人と恋なんておかしい、それは恋じゃない、って友達に笑われた。  きれいな景色を見せてあげたい、って、会ったこともない人に思うってやっぱりおかしいのだろうか。  でも。  咲は、スマホをポケットにしまい、道を歩きはじめる。  でも、誰がなんと言おうと、あれは「恋」だった。  ちゃんと「恋」だった。  彼に見せたい景色は、きっとこの先もたくさんある。  雪を見るたび、桜を見るたび、彼に見せたいと思ってしまうだろう。  だけど。  きれいなままで。  汚い部分なんていらない。  だから、彼にもう送ることはない。  雪の思い出は、そのほうがいい。  真っ白くて、何色も混ざらない白いままが、一番きれいだ。      
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