3人が本棚に入れています
本棚に追加
大きな金庫
モナの家には大きな漆黒の金庫があり、それはモナが物心ついた時には既にリビングで一番の存在感を誇示していた。
現在もその金庫は、若干痴呆気味のモナの祖母が、毎日欠かさず磨き上げている。そのことからも、その金庫は代々大切にされていることが窺える。ただ、その金庫が開けられたことは、12歳になるモナが知る限り一度も無い。
今では、リビングにあるその存在は当たり前すぎて、中に何が入っているか気にも掛ける者もいない単なる大きなオブジェとして、モナの家に馴染んでいるのである。
モナの家は領主であるシュルツ公爵の傍系にあたることもあって周囲の民家と比べると立派な作りで、生活も比較的裕福である。
そんなモナの家もモナの父の代になってからは、直接の領主との交流は全く無くなっており、今では一般民衆とほぼ変わらない家柄となっている。
しかし、昨日、そのモナの家に領主を飛び越えて、直接王宮から執事長一行がやって来たのである。
彼らの要件はモナの家にある大きな金庫の、その中にある。
執事長は到着すると直ぐにモナの父と長い話し合いを行い、その結果、金庫を開けることで話は纏まった。だが、モナも一度も開いたところを見たことが無いその金庫は、モナの父や祖母でさえもその開け方を知らないらしいのである。
只、その件については、モナの父と執事長との間では既に手紙でのやり取りはされていたようで、執事長も認識済みであった。そのことから、執事長は腕利きの鍵師も帯同させていたのである。
金庫の解錠作業は、鍵師により昨夜から始まっている。だが、お昼を過ぎても未だ全く開く気配が感じられないのだ。
その状況には、普段は温厚の執事長も苛立ちを隠せないようで、リビングの中を右に左に動き回ってばかりいる。
そんな姿を目の前で見せては作業も捗らないだろうと、見かねたモナの父が彼を落ち着かせるために彼を外に連れ出したのである。
その間に鍵師の元にやって来たのはモナの祖母であった。
最初のコメントを投稿しよう!