大きな金庫

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「鍵師さん、今の隙に休憩をしてはどうですか?」 「有難うございます。ですが、一刻も早く開けない事には…」  鍵師の表情にも焦りの色が見られる。 「根を詰めても捗りませんでしょ。さあさあ、お手を休めて」  モナの祖母は二人が席を外した隙にとお茶を用意し、半ば強引に鍵師に休憩を促す。 「そうですか、すみません、じゃあちょっとだけ」  鍵師は作業を中断し、祖母の差し出したお茶を口にする。 「時に、鍵師さん。鍵師さんは”千里の行も足下より始まる”と言う言葉の意味はご存じかしら?」 「それは、もちろん承知しております。大きな目標や目的を達成するためには、身近なことからこつこつと努力を積み重ねていくと言う事かと」 「さすが王宮に仕える鍵師さん、博識ね。  その言葉ね、私は昔し祖父から教わったの。あれは、確かこの金庫がこの家に運ばれてきた時だったかしら。足下からって言うのは大事みたいねぇ」  そう言って、笑顔を見せる祖母は、更に続けて、 「あと、こんなことも言ってたかしら、確か”輝くもの必ずしも金ならず”。昔、目を欺く細工が流行ったらしいのよ」  それだけ言うと、祖母は鍵師からカップを受け取り、その一部始終を見ていたモナに笑顔を見せて台所へと向かう。  それを聞いた鍵師は直ぐに金庫の底面を触り始める。そして、金庫を支える四本の脚の内、前の二本の付け根に触れると、その表情は一気に緩み出す。  実のところ、金庫の正面にある摘まみや鍵穴はダミーであって、扉を開けるための本当の鍵穴がその二本の脚の付け根に存在したのである。  鍵師はそれを発見したのである。  鍵師は早速作業を再開する。その手さばきは、それまでと違い鮮やかで、モナの目にも直ぐに金庫が空きそうな予感を感じさせる。  そんな最中、リビングを離れた二人が、外で待機していた王宮から来た一行全員を連れて戻って来た。  モナの父に説得された執事長は、今日の作業を中断し鍵師を少し休ませる決断をしたのである。
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