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「鍵師殿、少し休憩をしま・・・」
鍵師に向かい執事長がそう言いかけた時、そのタイミングを待っていたかのように「カチャッ」と言う音が静かなリビングに響き渡り、そこに居た人全ての目が金庫に集めた。
「大変遅くなりました」
そう言い、執事長に頭を下げる鍵師。
「開いたのか?」
「はい」
リビングは、一気に笑顔と興味深々の表情に包まれる。
執事長を始め皆が鍵師を称え、執事長は鍵師と手まで握り合う始末である。だが、その一連の流れを見ていたモナにはどう見ても祖母の言葉が、その切っ掛けだった様にしか思えない。
称賛されるのは祖母のような気もする。ただ、その時に祖母がモナに見せた微笑から、モナはその事を話すべきではないと理解し、口を噤むことにした。
鍵師に替わってモナの父が金庫に近づいて行く。
そして、扉の取っ手にてを掛けると、90度それを回して引く。
扉は渋い音をたてて開いて行く。
その様子を祖母を覗くその場の人たち全員が固唾を飲んで見守っている。モナも興味津々に一番後ろから人垣の隙間を縫ってその瞬間を覗き見る。
しかし、モナには金庫の中には、何も入っていない様に見える。
「空なの?」
そう呟いたが、その直後、モナの父が奥の方に張り付くよう置いてあった掌サイズの木箱を取り出した。
「小さっ」
モナはそう思ったが、
「やっぱり有りましたね」
金庫の中はそれだけだと言うのに、父や執事長を始め皆が凄い笑顔で喜んでいる。その様子から、目的の物であったことはモナにも窺える。
モナの父がその小箱を開け、部屋の隅で椅子に揺られていた祖母のところに持って行く。
「母さん、これで間違いないですか?」
「ええ、聞いていた通りの物ですから間違いですよ」
そう応えるモナの祖母。
普段祖母に頼ることのない父が祖母に同意を求めたのを見て、モナはその小箱の中の物が古くからこの家に伝わっているものだと認識した。
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