80年前のこと

4/4
前へ
/10ページ
次へ
 そして、そんなことを続けていたある日、ついに我慢の限界に達した彼は、シュルツ領には有り得ない王都で盗んだ高価なネックレスを持参し、直接彼女の前に現れ、正々堂々と彼女に告白をしたのである。  金品に対しては犯罪者であった彼も、異性に対しては実直な紳士であったのだ。  結果的にそれが彼にとっての運の尽きとなる。  大幅に数を減らしたファンの中での彼の劇場での熱意は、異常なまでに目立っていた。それに加えて彼の飛びぬけて多いプレゼントの数。更に今回の告白時に使用した逸品のプレゼントである。彼を犯人であると判断するには十分となったのである。  確信を得たことにより、領主お抱えの騎士団や自警団は常に彼をマーク。それにより、通常の住処や数か所の隠れ家、それに盗品の隠し場所も全て見つかり、その後、盗みを働いたところを現行犯でお縄となったのである。  実の処、この怪盗二枚腰を捕まえる一連の流れは、盟主と謳われた領主シュルツの筋書きであったのだ。スポイトットの噂を流したのも、それを盗みやすくしたのも彼の指示からによるものであった。  魔道具のスポイトットも献上されたものではなく、領主の元で開発されたもので、当時、領主直属の魔道具開発担当官であったサルドリック‐シュナイツアーの傑作品であった。  その彼は領主の伴侶の兄にあたり、モナの祖母の祖父に当たる人でもある。  そして、その踊り子ミレリは、領主シュルツの従姉妹にあたるルーベレンス男爵の令嬢エミリアである。  この一件後、スポイトットの存在が他国に広がることを恐れた領主は、恋を盗む魔道具は噂であり事実ではないと言う事を領民に伝え、現物は秘密裏に開発者に預からせることにしたのである。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加