ハルコホリック

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 ひとりになった途端、寒さが足元からせり上がってきた。かじかむ指先を擦り合わせても、そこに熱は生まれない。  こんな日に葬式だなんて、本当に迷惑な野郎だ、と思う。この感覚があるから、まだ自分は大丈夫そうだった。  俺と春湖との間に特別な感情が芽生える日は来ないだろう。  俺は春湖に興味がないし、春湖は佐伯にしか興味がない(例えそれが、恋愛感情ではなかったとしても)  だとしても、俺はここで春湖を待っていなくてはいけないような気がした。  それは彼女のためというよりは、自分のためなのかもしれなかった。  今俺が春湖を置いて帰ったら、その時の記憶がずっと尾を引いて、やがては自分の将来に暗い影を落としてしまう。そんな予感がした。  戻ってきた春湖は、今度は悲しみに震えているのかもしれない。そんな彼女を支える度量が、自分にあるとは想像出来なかった。  それでも俺はここで、春湖を待っていようと思う。  生者は生者にしか寄り添えないから。
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