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春湖はふーっと長く息を吐くと、すっかり冷めて不味くなっているであろうコーヒーをひとくち飲んだ。そしてまた、ため息を吐いた。
「だけど、あの日からずっと考え続けているわ。私が佐伯君の想いを受け止めた上で、優しさを添えて断っていたら。それとも、告白の返事を保留にしていたら。それとも、私に佐伯君の恋人となる覚悟があったなら。彼は死ななかったんじゃないかって」
「……」
「でもね、どうしたって、想像の中の佐伯君は命を絶ってしまうの。嘘や誤魔化しは彼には通用しない。私の気持ちがあの人にない時点で、いつかは起こることだった。そんな結論に達して、毎回叫び出したくなるわ……。これはきっと、一生続くこと。人生の合間合間に考えて、その度に私は絶望するのね」
さっき、春湖が女をぶった時に言ったことを思い出す。
『例え時が巻き戻ったって、あなたに出来ることなんかない。何かしたとしても無意味よ。きっと佐伯君は自殺するわ』
俺はこの憐れな友人のために、何が出来るのだろうか。
「佐伯の顔、最後に見てやったら」
「え……?」
思い付きをそのまま口にすると、春湖は戸惑うように瞬きした。
「未練があるような口ぶりだからさ、佐伯の死に顔でも見たら、何か納得するかなって」
それで春湖の気持ちが晴れるとは思えない。でも、彼女をこのまま帰してはいけないような気がした。
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