ハルコホリック

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 春湖に付き添うようにして、そそくさと通夜の場を後にする。  出入口にいた佐伯の両親は、親戚らしき人々に囲まれて悲痛な表情を浮かべていた。春湖達の諍いは目にも入らなかったようだ。 「ちょっとの間、外で頭を冷やしてくるわね。このままの精神状態で帰ったら、どこかで事故に遭いそう」  葬式帰りにしては不謹慎なことを言いながら、春湖は葬儀場を出た脇にあるベンチへと向かった。このまま放っておくわけにもいかず、俺も後に続く。彼女はちらりとこちらを見ただけで、何も言わなかった。  ベンチに腰掛けた春湖は、少し落ち着きを取り戻したように見えた。葬儀場の大きな窓から漏れる明かりが、彼女の生真面目そうな横顔を照らしている。  近くの自販機でホットの缶コーヒーを二本買う。ひとつを春湖に手渡しながら、怒りを鎮めたい人間に無糖のブラックコーヒーはどうなのだろう、と今更ながら気付いた。俺も内心、参っていたのだ。 「ありがとう。ごめんね、くだらない喧嘩に巻き込んで」  ため息を冷気で白く染めて、春湖が謝罪した。  あの子がああいう性格なのは昔からだけど、今回ばかりは許せなかった。そう言って、遠慮がちにコーヒーを啜る。 「別に、気にするなよ。つうか、人死に過ぎだろ、あの大学」  敢えて軽い調子でそう言ったものの、春湖は困ったような曖昧な表情を浮かべただけだった。
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