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俺の通う美大では、兎にも角にも学生が死ぬ。
酒に溺れては急死し、失踪しては帰らぬ人となり。佐伯のように自ら命を絶つ者もいる。
そして殆どの場合、死の理由が俺達に知らされることはない。
「佐伯、何で死んだんだろうな」
人間関係への絶望か。将来への不安か。それとも、芸術に真摯に向き合った結果なのか。
遺された人間はあれこれと考える。答え合わせの出来ない状況であっても、せめて正解には近付きたくて。
「俺の周りでは、一番死ななそうな奴に見えたけどな」
そこでようやく、春湖が「そうね」と頷いた。
「私も、佐伯君は一番成功しそうな人だと思っていたわ」
お互いに押し黙り、生前の佐伯の姿を思い浮かべる。
爬虫類のような薄い顔立ちにヘラヘラとした笑みを貼り付けた男。口数は少なく、いつも飄々としていた。二十歳にしては大人びていて、俺と同い年とは思えなかった。
周囲を気にしないマイペースな性格で、上下スウェット姿で登校する日もあった。そんなルーズな部分も何故かサマになっていて、そのせいか、あいつは女によくモテた。
「さっきの葬式、佐伯の彼女っぽい子が何人かいたな。皆、ボロボロ泣いててさ。何なんだって思った」
「美女が数名いたわね。佐伯君には謎の魅力があるから、惑わされちゃうのかしらね」
他人事のように言うけど、春湖、お前だってそうだろ。
佐伯には恋愛対象として見られていないものの、女友達として可愛がられるポジションに上手く収まっていたよな。
思っただけで口には出さない。俺までぶたれては敵わない。
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