ハルコホリック

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「春湖、それって……」 「私のせいなの」  どこか遠くを見るような目をして、春湖は打ち明けた。 「急に呼び出されて、佐伯君の下宿に行ったの。肖像画を渡されて、私を絵に写しているって知らせてきて……。その後で、彼の想いを告げられた。愛してるって。人生を共にしてほしいって」 「……」 「私は怖くなって拒絶した。そうしたら、佐伯君は『冗談だよ』って笑って……。そう、笑って別れたはずなのよ。それなのに」 「だから、佐伯は自殺したのか?」  そう聞いた自分の声は掠れていた。  春湖はすっと黙る。それが答えだった。 「……俺は、春湖の方が佐伯に入れ込んでいるとばかり思ってた」  正直に告げると、春湖は「愛していたわ」と囁く。 「でも、あくまで良き友達として、彼の絵と才能を愛していたの。恋愛関係は求めていなかった。あんなに繊細で気難しい人、私の手に負えるはずがないわ」  繊細で気難しい、か。  俺にはそんな奴には見えなかった。いつも余裕たっぷりで、傍にいると焦りを感じた。  きっと、佐伯は春湖にだけは、素の自分を見せることが出来たのだろう。 「このこと、他の誰かに言ったのか?」 「いいえ。本当に口が堅い人間なんて、君以外に知らないもの」  それに、と春湖は続ける。 「私のような冴えない女に振られて自殺したなんて、周りに知られない方がいいわ。佐伯君は芸術の名の下に死を選んだ、そういうことにしましょう。誰にも理解出来ない、高尚な理由でね」  それが佐伯にとって良いことなのかどうか、俺には分からなかった。  ただ、自分に春湖の選択をジャッジする権利はないように思えた。  俺は今彼女から聞いたことを、誰にも話さないだろう。
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