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おとうさんの唐揚げ弁当
「お父さん、お弁当ありがとう!」
ぼくは、家に帰ったら、真っ先にお父さんにそう言うんだ。僕は幼稚園のお弁当の時間が終わってからは、もうそのことで頭がいっぱいっだった。
お弁当は、ぼくの大好きな唐揚げだった。朝作ってから時間が経っていたはずなのに、外はさっくりとした揚げたて感をしっかりと残していて、中の鶏肉は、当然しっとりとしていた。お母さんの冷凍の唐揚げとは全然違う、本当に美味しい唐揚げだった。
だから、大好きな工作の時間も、本当に「ありがとうを言わなくっちゃ。」っていう気持ちで胸がいっぱいで、いつもは僕の指の一部のように動いてくれるハサミも、ちっとも言うことを聞いてくれないし。糊も、テープも目指した部分から大幅によれたり、はみ出したりしてしまって、それなのに、先生は「翔太君は、いつもとっても工作が上手で、まるで魔法の指先を持っているみたいだね。」と、心からの嘘偽りのない言葉として、僕に語りかけてくる。
でも、先生や大人のだれかが、どんなに僕を褒めてくれても、僕は自分の納得のいった作品を褒めてくれるわけではない場合は、どう言うわけか、却って悲しい気持ちになるのが常だった。でも、それは今だから説明できるその時の心境。あの頃は、自分でもその気持ちがわからなくて、幼稚園の先生が一生懸命に褒めてくれるのに、泣き出して、しまいには、丹精込めて作った作品を、先生の目の前で壊してしまって、そのままずっと泣きじゃくっていたこともあった。
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