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お迎え
結局その日、ぼくはちっとも機嫌がなおらなくて、幼稚園の先生の小さいアンパンマンやバイキンマンがたくさん刺繍してあるエプロンに絡みついて、その細かい刺繍の糸を小さな爪で引っ掻いて、ひっぱって、ほつれさせようとしたり。挙句は、先生の背中によじ登って、先生の楕円形の耳の、垂れ下がっている小さい耳たぶをぎゅーぎゅー押したり、引っ張ったりした。
猫の耳は、頭を振れば、パタパタと音がするぐらい、薄くて、でも、ピンとしている。耳の奥は、毛がもしゃもしゃと生えているから、よくは見えないけれど、外側のペラペラの耳と比べたら、なんだか失敗したプリンのかけらのようなひだが、ごつごつしていて、とてもグロテスクだ。耳の位置から考えても、直接脳みそに届いていそうで、懐中電灯で照らしてのぞいたら脳みそそのものが見えてしまいそうで、そんな猫の耳の存在自体がとても不気味なものに感じられたものだ。
でも、猫の耳と比べると、人間の耳は、外側に見える耳自体は、やっぱりごつごつと、渦を巻いたり、出っぱっていたりしてグロテスクにも見えるけれど、耳の穴は小さくて、頭の中の脳みそまでは見えそうもないのは、ちょっと安心できる。
そうこうしているうちに、先生の、「翔太君、お迎えよ。お母さんよ。」と言う声が聞こえてきた。
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